仏裁判所が石油メジャーに「グリーンウォッシュ」判決

記事のポイント


  1. フランスの裁判所は、トタルエナジーズに「グリーンウォッシュ」の判決を下した
  2. 同社は環境配慮の主張をしながら、実際には石油・ガス生産を拡大していた
  3. 石油メジャーへのグリーンウォッシュ判決は、世界で初めての事例となる

仏パリ民事裁判所は10月23日、同国の石油・ガス大手のトタルエナジーズが、気候変動対策に関連して「誤解を招く商業慣行」を行ったとして有罪判決を下した。同社は、「2050年のカーボンニュートラルを目指す」「クリーンエネルギーへの転換を図る」などの主張をしながら、実際には石油・ガスの生産を拡大していた。グリーンウォッシュの判決が石油メジャーに下ったのは世界初だ。原告の環境NGOらはこの判決を「歴史的勝利」と歓迎した。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

石油・ガス大手企業に「グリーンウォッシュ」の判決が下った

トタルエナジーズ(フランス・パリ)は、エクソンモービル(米)、シェブロン(米)、BP(英)、シェル(英)とともに「石油メジャー」と呼ばれる世界的なエネルギー大手企業だ。

そのトタルエナジーズに対して、パリ民事裁判所は10月23日、同社がこれまで行ってきた環境主張を「誤解を招く商業慣行」だとして有罪判決を下した。

世界では、グリーンウォッシュを規制する動きが進む。これまで欧州では、オランダのKLM航空やドイツのルフトハンザ航空が、「曖昧な環境主張」を理由にグリーンウォッシュとの判決を受けた。

グリーンウォッシュの判決が石油メジャーに下ったのは、世界初だ。「世界の石油・ガス大手企業に対し、明確な警告を発した画期的な判決だ」と環境NGOクライアントアースのジョナサン・ホワイト弁護士はコメントした。

「(クリーンエネルギーへの)移行の一翼を担うと主張しながら、新たに化石燃料プロジェクトを支援することは、法的な代償を伴うことが実証された」(ホワイト弁護士)

■トタルエナジーズは控訴せず

パリ民事裁判所はトタルエナジーズに対して、同社の環境主張に関する記載を1か月以内に削除し、判決文を同社ウェブサイトに180日間掲載するよう命じた。実施しなかった場合は、どちらに対しても1日当たり1万ユーロ(約178万円)の罰金を科すという。

削除を命じたのは、同社の「エネルギー転換における主要プレイヤーとなる」、「社会と共に2050年までにカーボンニュートラルを達成する」、「国連の持続開発目標に沿ってサステナビリティを戦略の中核に据える」、「より多くのエネルギー、より少ない排出」という記載だ。

裁判所はまた、トタルエナジーズが、原告団である環境NGO3団体(グリーンピース・フランス、フレンズ・オブ・ジ・アース・フランス、ノートル・アフェア・ア・トゥー)のそれぞれに賠償金8000ユーロ(約142万円)と訴訟費用1万5000ユーロ(約267万円)を支払うことも命じた。

トタルエナジーズは控訴せず、同社ウェブサイトは、日本語版も含め、裁判所から「誤解を招く」と指摘のあった表現が消えた。

■石油・ガスの生産拡大は、環境主張と真っ向から反する

トタルエナジーズは2021年、旧社名のトタルから社名変更をした。石油・ガス事業を拡大しつつ、「2050年までのカーボンニュートラル達成」目標を掲げた。また化石燃料由来のガスを、「温室効果ガス排出量が最も少ない化石燃料」とも主張した。

同時に、イラク、デンマーク、タンザニア、ウガンダで新規の石油・ガスプロジェクトを進めてきた。

原告団は、同社がカーボンニュートラルとクリーンエネルギーにフォーカスした広告を行いながら、依然として、化石燃料に依存した事業展開を行うその行為は、同社の環境主張と真っ向から反するものだと指摘した。

開示資料によれば、トタルエナジーズは、約30ギガワットの再エネ容量を有するが、2024年は収益の97%以上を「持続可能ではない」事業から得ていた。

■IEA勧告「新たな石油・ガス田の開発停止」に触れる

パリの民事裁判所は、判決にあたって、国際エネルギー機関(IEA)、国連環境計画(UNEP)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書を引用した。これら報告書は、パリ協定の目標達成には、排出量の急速な削減が必要だと強調する。特にIEAは、新たな石油・ガス田の開発停止を勧告しており、裁判所はこの点にも触れた。

そして、「トタルエナジーズは、自社の戦略には、石油・ガスの生産拡大も含んでいることを明示せず、パリ協定を参照し、あたかもそれに沿って低炭素経済を支援しているかのように消費者を誤解させた」とした。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #脱炭素

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