記事のポイント
- トヨタ自動車などESG関連の情報をデータで管理する企業が増えてきた
- 上場企業に非財務情報の開示を求める声が強まってきたことが背景にある
- 上場企業が外部評価機関から求められるアンケートは年間で数百件を超す
ESG関連の情報をデータで管理する企業が増えてきた。上場企業に対して非財務情報の開示を求める格付け機関や取引先、メディアなどの声が強まってきたことが背景にある。サステナ情報開示の法規制も整備され、ESG情報の正確性と客観性が問われる。(オルタナS編集長=池田 真隆)
上場企業に対して非財務情報の開示を求める声は強まる。特にプライム市場に上場する企業が格付け機関やインデックス会社などの外部評価機関から求められるアンケート数は年間で数百件を超す。
サステナ担当者は情報をまとめる作業やアンケート対応に追われ、サステナ経営の推進につながる「施策(アクション)」に時間が割けないでいる。こうした中、データでESG関連情報を管理する企業が増えてきた。
■AIが自社に最適な開示項目を分析、費用は月数十万円から
2019年創業のシェルパ・アンド・カンパニー(東京・品川)は、企業向けにESG情報の開示支援を行う。提供するサービスの名称は、「SmartESG」だ。サービスの特徴はAIが自社に最適な開示項目を読み取ることだ。
格付け機関やインデックス会社などの外部評価機関の評価指標をAIに読み込ませた。費用は企業規模により異なるが、月数十万円からだ。
2023年10月には、トヨタ自動車が同サービスの導入を決めた。その他、三菱UFJフィナンシャルグループやリクルートホールディングスなど大企業の導入が相次ぐ。
同社を立ち上げた、杉本淳CEOはSMBC日興証券とJPモルガン証券で国内外の大型M&A、資金調達案件のアドバイザリー業務に従事してきた人物だ。
![](https://cdn.alterna.co.jp/wp-content/uploads/2024/01/cierpa_sugimoto_01-517x530.jpg)
SmartESGで目指すのは、外部不経済の可視化だ。気候変動や生物多様性、人権などのサステナビリティ課題をテクノロジーによって定量化し、市場経済への組み込みを狙う。
■「2024年はESG全領域の開示が加速する」
昨年から有価証券報告書で気候変動と人的資本・多様性について開示することを義務化した。杉本CEOは、2024年はESG全般の開示がグローバルでより加速していくと指摘した。
「有報での開示義務化の大きなポイントは気候変動だけではなく、人的資本・多様性の可視化についても求められたことです。特に従業員の状況に関する定量的な内容:男女間の賃金格差や男性の育休取得率、女性の管理職比率を連結ベースで開示していく必要が出てきたこと、これはEの規制領域から始まった動きがSからさらにGへと広がりを見せようとしているのも法規制が影響を与えたポイントだと考えています」
海外では情報開示の法規制の整備が進む。2024年1月から、IFRS傘下のISSBが公表した開示基準の最終版の適用が始まる。加えて、欧州サステナビリティ報告基準の最終化であるCSRD・ESRSへの対応も必要だ。
欧州委員会が2022年2月に公表した、「CSDDD」(コーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令)もある。この指令は、環境・人権双方の観点から、持続可能で責任ある企業行動を促進することが狙いだ。
企業活動によって、環境と人権の側面から、どのような負の影響を及ぼしているか、特定を求めた。必要に応じて、その影響の防止や緩和も求める。
指令の導入時期は未定だ。だが、この指令が導入することを見越して、いち早く対応することが重要だ。
杉本CEOは、「日本企業でも、デューディリジェンスの取り組みを目にするようになったが、人権・環境の両面で明確な方針を定め、十分に実施している企業は少ない」と話す。
デューディリジェンスは強固なサステナ経営に欠かせない必須要素だ。杉本CEOは、「構築するには、多くの時間と労力を要する。一歩ずつでも取り組んでいくことが重要だ」とした。