BOPビジネス支援、新たなステージへ生かせ教訓

新生JICA(国際協力機構)の発足とともに民間連携室(現民間連携事業部)ができたのが2008年。そのいわば目玉事業としてスタートしたのが、協力準備調査(BOPビジネス連携促進、通称BOPFS)だ。日本企業がアジア、アフリカなど途上国でBOPビジネスを展開するための準備調査に最大5000万円を支援しようという画期的なものである。すでに調査を終え、事業化が実現したプロジェクトがある一方で、事業化を断念した企業もある。今後の日本企業のBOPビジネス展開の成功の秘訣は何か、JICA民間連携事業部連携推進課の馬場隆課長に聞いた。(聞き手=CSRtoday編集長・原田勝広)

JICA民間連携事業部連携推進課の馬場隆課長
JICA民間連携事業部連携推進課の馬場隆課長

原田 初回から7回までをみると、応募合計515件で採択が91件。うち事業化されたのは34件。直近の第8回の応募が48件で採択は8件。企業の応募意欲がやや減少しているのが気になる。事業化案件もまだまだ少ないという印象を受ける。

馬場 初期のころは、まだBOPビジネスのイメージがしっかり固まっておらず、試行錯誤していた点はあろう。実際、CSR的な意識で入った企業もあり、準備調査が終わり、社内で経営者や実際に事業展開を担当する部署に話が回り、現地法人の設立やリスクについて検討する段階で、会社としてストップがかかってしまったケースもある。

応募件数の減少に関しては、その背景・理由を探るため、現在、企業にヒアリングをしているところ。海外展開への意欲、そのなかでの途上国でのBOPビジネスへの関心、JICAのBOPFSの認知――などを聞いている。

笑えない話だが、JICAのBOPFSに応募して採択され、実際に調査を実施しているにもかかわらず、この支援スキームを知らないと答える企業があり、驚いた。今回のヒアリング対象は事業部であり、以前の応募がCSR部門だったりすると、社内の情報ギャップで、そのようなことが起こるのかなと――。

応募件数を増やすという意味でも経営上層部にコミットしてもらうよう改善が必要と認識している。

■ 事業化に向け、工夫や連携が必要

原田 事業化の段階で、採算性や資金調達が問題になるのは、そういう事情があるからですね。しかし、流通業者が見つからないとか、BOP層の支払い能力が低いとか、事業化を難しくしている途上国特有の事情もあるのではないか。

馬場 確かにそういう面はあるが、成功した企業はそうした課題を乗り越える工夫をしている。例えば、水ビジネスは当初応募が多かったが、最近は減っている。事業化が困難だからだ。なぜか。

日本の様々な技術を使ってきれいな水を提供する。確かにきれいな水で、途上国で売れそうに思える。しかし、現地には質は劣るが無料の水が存在する。従って、ただ商品を持ち込んで、きれいだというだけではお金を払ってはくれない。

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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