「B to S」で地域協働を目指す、日立のプロボノ支援

このエントリーをはてなブックマークに追加

日立製作所ICT事業統括本部CSR部の増田典生部長は、東日本大震災で被害を受けた地域の復興に、ITで貢献できることはないかを模索していた。その中で、被災地域の企業や自治体と、都市圏の企業をつなぐ「共創プロジェクト」などをプロデュースしている一般社団法人新興事業創出機構(JEBDA)から、釜石市を紹介された。(一般社団法人RCF=荒井美穂子)

■毎月足を運び、協議を重ねる

地域に足繁く通い、交流を重ねることで信頼関係が深まった

地域に足繁く通い、交流を重ねることで信頼関係が深まった

2013年3月。東京にある日立のオフィスに釜石から地元の水産加工会社社長やNPO団体代表を招き、増田部長は社内説明会を開催した。説明会には 100人以上の社員が参加、積極的に支援活動をしたいという社員も50人以上いた。

手を挙げた社員から専門性や志望動機などを勘案し、10人程度に絞り込み、チームを編成した。活動は就業時間外を利用したプロボノ。チームメンバーの上司にも主旨を説明しコンセンサスを得た。また現地への旅費や開発環境機材などは CSR 部が負担し、個人や所属する組織に負担がかからないように配慮した。

「企業理念に沿った活動であること、自分たちの専門能力である ICT を活かして社会貢献ができることから、多くの社員が手を挙げたのでは」と増田部長は振り返る。

「被災地は一時、営業目的で外部の人間がドッと押し寄せますが、いつしか潮が引くようにいなくなってしまうパターンが多く、地元の方々には外部の人間への距離感が体験的にできてしまっていました」(増田部長)

そこで同社は「こんなことをやります」「こんなことができます」とはあえて言わず、毎月訪問を重ね、釜石市唐丹町の方々が「何を必要としているのか」「何に困っているのか」に耳を傾け続けたという。

増田部長が、地元の人が信用し始めてくれていると感じたのは、訪問から半年ほど経った頃だという。片道6時間かけての移動。日帰りできない距離だからこそ、地元の住職や漁協の面々と酒を酌み交わしながら、腹を割って話ができた。

この様な交流を通して、地元には単純な情報発信だけでなく、Webサイトを地域コミュニティのハブにしたいという意向があることを知った。そこで地元公民館や漁協女性部、お寺、小・中学校など、地域のたくさんの方々にヒアリングを開始。

ヒアリングで出た意見をもとに、ハブとして集客数をアップするためのコンテンツとして、地産品を使ったレシピを載せたり、分散していた唐丹町の歴史的資料を収集・整理して載せたりするなどの工夫をした。現在は、ファクシミリで受け付けている海産物の販売を、Web上から行うための仕掛けづくりを検討している。

地元企業、釜石ヒカリフーズの佐藤正一社長も「(日立のみなさんは)3年間、毎月のようにこの街にきてくれました。すごく真剣に地域を良くしようとする姿に感銘を受けたし、我々ももっとがんばってお答えしなければならないと思っています」と期待を語った。

「震災から5年半が経過しましたが、復興は道半ば。私自身は、ここから一歩進む勇気、継続する責任感・使命感は日増しに強くなってきています。いまは、岩手県の釜石の唐丹という小さな町を、なんとか全国の人に知ってもらおうと、漁民の方、漁協の方と共に、どうアピールするかを真剣に考えているところです」(佐藤社長)

■評価されることでソーシャルマインド高まる

社員によるプロボノ支援。活動自体は業務時間外のものであり、二足の草鞋を履くことにはなるが、人事評価に直接つながる(加点評価項目がある)わけではない。そこで社員の活動を、社内 Web サイトや様々な CSR 関連イベントの中で、できるだけ紹介した。

社員の努力が社内にも見える形となり、育まれた自信が本業にも影響を与えた。その結果、所属の上長からの評価も上がり、良い循環が生まれた。

グローバルの 従業員33 万人を対象とした社内表彰制度において、日本地域での審査員特別表彰を受けた。事業に直接関係のないCSR活動が表彰を受けたのは、グローバル初の快挙だった。これが更に、ソーシャルマインドが高い社員のすそ野を広げる、社内プロボノ制度「ちょこプロ」の導入につながった。

「ちょこプロ」は「ちょこっとプロボノ」の略で、唐丹町での取り組みよりも一つ一つのプロジェクトのボリュームを軽量化し、地域課題やニーズをピンポイントで解決・支援する形をとり、社員がより参画しやすいようにしている。

増田部長は、事業をB(ビジネス)to S(ソーシャル)で捉えた場合、通常の中期経営計画よりも長い、5年から10年の視座で挑む必要があると考えている。唐丹町民と、ひざとひざを突き合わせ、信頼を構築し協働することで、事業を展開した経験と実証からだ。

プロジェクト推進は、支援する側からされる側への一方的なものではなく、協働して目標に向かうことが求められる。自社でできることありき、ではなく、地元のニーズ、課題の掘り起こしを「共に」しながら、地元の思いの実現に伴走し、一年ごとにマイルストーンを置き、軌道を修正する。この一連の活動を行うことで、地元の力が上がることが、本来目指す復興の形ではないだろうか。

■地域活性化に向けた協定を締結

これまでの実績が基になり、2016年6月14日、釜石市と日立、JEBDAの3者は、釜石市における地域活性化に向けた取り組みに関する協定を締結した。そして現在、商店街の活性化や地場食品のブランド化など、唐丹町以外の地域・団体と協働で地域課題解決を進める「ちょこプロ」が、本「いわて三陸復興のかけ橋」事業のマッチング支援を通して生まれつつある。

2012年、プロボノメンバーと共に、唐丹町という「点」から一歩を踏み出したこの事業から、釜石市という「面」での支援がスタートする。「地元との協働」を基軸にした支援への、地元の信用と期待が、次の一歩への後押しになっている。

一般社団法人 RCF
2011年4月、震災復興のための調査を行う団体として発足。現在は復興事業の立案・関係者間の調整を担う「復興コーディネーター」集団として活動。代表理事は藤沢烈。活動例として、2015年度はいわて未来づくり機構を母体とする「いわて三陸 復興のかけ橋プロジェクト」を岩手県より受託し、岩手県内各地と県外企業・団体の復興支援マッチングを推進している。

2016年12月27日(火)19:10

alternaショップ
ページの先頭に戻る↑