都市開発とイノベーティブ・マーケティング

齊藤紀子
企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長
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都市開発とイノベーティブ・マーケティング――企業と社会フォーラム(JFBS)第6回年次大会

企業と社会フォーラム(JFBS)は2016年9月8、9日、「JFBS第6回年次大会」(後援:日本マーケティング学会)を早稲田大学で開催しました。今回は、企画セッションの一つ、「都市開発とイノベーティブ・マーケティング」における報告・議論の内容をご紹介します。

本セッションでは問題提起ののち、積水ハウス、積和グランドマスト、三菱地所、三菱総合研究所によるイノベーティブ・マーケティングの取り組み報告と質疑応答がなされました。

■ポリモルフィック(多型)・マーケティングの時代

最初に古川一郎教授(一橋大学)より問題提起がなされました。日本マーケティング大賞の第1回(2009)から第8回(2016)までの受賞事例をみると、作り手主体の従来のマーケティング活動とは異なる、消費者を巻き込むマーケティング活動が次第に増えてきていることが分かります。

さまざまな主体が知恵を出し合いながら成功につながっていく、使い手の参加・共創によるマーケティング活動です。知識が価値を生む知識社会では「作り手の知恵」「使い手の知恵」「つなぐ人たちの知恵」によってコトづくりがなされ、コトの中でモノが意味をもつようになっているのです。

標準品の大量生産・大量販売という20世紀型の「モノを売る」グッズ・ドミナントロジックから、知識が違いを生みだす21世紀型の「コトを売る(顧客の体験にかかわる)」サービス・ドミナントロジックにシフトしているといえます。

それは地域活性化にもあてはまります。どこかでうまくいった活性化事例をそのまま実行してもうまくいきません。地域は多様な歴史・文化を持っていることから全体最適ではなく局所最適でよいとの考え方のもと、地域の課題はその地域で解決していくこと、トップダウン型の進め方ではなく多くの多彩な人々の協働によって取り組むことが重要です。

そこではリーダーシップは限定的であるためゴールの共有により活動を継続させていくことが重要です。こうして「新しいコモンズ」を生み出していくことにマーケティングが寄与するのです。

社会およびマーケティングを取り巻く環境は大きく変化しています。ITの発達はめざましく、2020年ごろにはこれまで情報にアクセスできなかった多くの人々ができるようになり、人体に例えれば末端まで神経がつながっていきます。自動運転などの技術革新によりロジスティックスが変わり、都市づくりも大きな影響を受けます。

こうした変化の中でそれぞれ地域独自の歴史・地域資源・人・制度・文化を大切にして地域創生の行動に埋め込んでいかなければ独自ブランドは生まれません。自然界がポリモルフィック(多型)であるように、地域もポリモルフィックに生き抜くことが必要なのです。

環境が社会の選択を決め、選択が社会の環境を生みます。地域活性化において、集団活動のゴールとなるコンセプト(コト)を多様な主体の参加により生み出し、活動を継続させ、さらに質を向上させていくうえで知識創造と行為の循環の仕組みづくりが必要です。

■都市開発におけるイノベーティブ・マーケティング

次に、積水ハウスの取り組みとして、広瀬雄樹氏(積水ハウス)よりまず同社のCSRの考え方が紹介され、続いて小山健氏(積和グランドマスト)よりサービス付き高齢者住宅の賃貸事業における取り組みが紹介されました。

積水ハウスは、地球温暖化、エネルギー問題、少子高齢化、コミュニティ衰退などさまざまな社会的課題と住宅とはつながりがあると考え、住宅を変えることで社会にいいインパクトを与えることを目指しています。同社のさまざまな取り組みの中から、高齢者が在宅で誇り高き高齢期を過ごすための住まいづくりについて紹介がなされました。

要介護・要支援の度合いが低い高齢者が自立した生活を在宅で送れるようにすることと、介護保険制度にかかる負担を減らすことを目的として、サービス付き高齢者住宅の供給が補助金制度のもと進められていますが、いま需要と供給に大きなミスマッチが生じています。

介護系・医療系事業者により要介護者向けのものが大量に供給され全体の3/4を占めていますが、要介護者は高齢者全体の2割弱にすぎないのが実態なのです。

こうした中、同社のグループ企業である積和グランドマストでは、誇り高き高齢期を過ごすことができる住まいとしてのサービス付き高齢者住宅をめざし、多世代交流型住宅の供給という取り組みを進めています。

高齢者もDINKSもファミリー層も入居する賃貸住宅とし、ファミリー世帯の子どもを高齢者が見守ったり、ハンドベル演奏やハロウィンパーティを開催したり、地域で開催されるお祭りに参加したりと、世代間の絆や地域との絆をつくる仕掛けを講じてマンションの快適性、入居者の満足度を高めています。

こうした取り組みが功奏し、当初はマンション建設に反対していた近隣住民が今では入居者となって地域のイベントへ参画するようになったということです。

松田智生氏(三菱総合研究所)からは、「まちづくりはひとづくり」というコンセプトのもと進められている取り組みが紹介されました。日本の高齢化率は26%に達しましたが、同社ではピンチをチャンスに変える逆転の発想としてアクティブシニアによるプラチナ社会をめざすことを提言しています。

このような社会は一企業、一個人では実現できないため、産・官・学の520ほどの会員から構成される知の拠点「プラチナ社会研究会」を設け、組合せ型のビジネスを生み出そうとしています。そこではたとえば介護で儲けるのではなく介護にさせないことで儲けるという逆転の発想をもち、日本人の国民性になじむ日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community:継続的ケアつきの高齢者コミュニティ)をつくることなどを検討しています。

またまちづくりの担い手育成のため丸の内プラチナ大学という場も設け、ヨソモノまちおこしコースや農業ビジネスコースなどの講座を実施しているということです。

村上孝憲氏 (三菱地所)からは、まちに新しい機能を入れていくための大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有地区)における試みが報告されました。現在この地区にみられる整った区画は江戸末期につくられ、同社による開発が明治時代にスタートしました。

現在進められている丸の内再構築(第3次開発)は、阪神淡路大震災後の耐震基準強化やバブル経済崩壊の影響によるテナント企業流出などを経て1998年に始動しました。「世界で最もインタラクションが活発な街を実現させること」をコンセプトとし、ハード(高度高質な施設設備と活動環境の提供)とソフト(多用途集積を活かした直接対話型ビジネスチャンス創出)の両方を同時に充実させていくことを目指しています。

大丸有地区に土地と建物を持つ地権者が全員参加して「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」を設置し、全員合意のもとまちづくりを進めています。これまでの約20年間でこのまちは様変わりしました。かつて銀行が多く入居して15時になるとシャッター街になっていた通りはいま多くの人が木陰で休憩・談笑できる場所となり、店舗数も約3倍に増えました。

これからのまちづくりとして、環境と経済と社会のバランスが取れたまちづくりをビジョンに据え共通価値の創造を目指しています。それを具体的プロジェクトにしていくため、考える場所、ビジネス創発の場所として3×3 Lab Future(さんさんラボフューチャー)を2016年につくりました。

これからはディベロッパー(床をつくる人)とテナント(床を借りる人)の関係においてテナントの潜在的な要望に働きかけて新しい価値を提供し、需要を作り出す要望を顕在化させていくことが大切だということです。

これらの報告ののち行われた質疑応答では、どのように要望を顕在化させるのかということについて意見交換が行われました。1企業だけでなくさまざまな主体が参加する方法が有益であることが指摘され、具体的アイデアが示されました。

例えば大丸有地区内の企業が実施する社員向け健康診断と、同地区内の飲食店から届く減塩メニューやフィットネスジムから届くトレーニングメニューなどの健康情報を丸の内共有カードのようなもので管理すること。

サービス付き高齢者住宅内のファミリータイプ住戸では、これまでの住宅づくりで培ってきたノウハウをもとに、洗面台の足載せ台やお絵かきボードなどのハード面を整備し、自転車置き場付近で話をするお母さんたち向けのイベントといったソフト面を充実させ、社宅として借り上げてもらうことなど。

そして不可欠だといわれ続けているまちづくり人材の育成においても、縦割りを排し、共創の取り組みを積極的に進めていくことが重要であることが指摘されました。

齊藤紀子
企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長
原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学専任講師。

2017年1月11日(水)19:20

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