書評:独コンパクトシティ、交通や住宅の視点で分析

■『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか』(村上敦著・学芸出版社)
『フライブルクのまちづくり』(同)など、ドイツ在住で環境やエネルギー、都市計画の視点でまちづくり全体を考える村上敦さんの新刊である。村上さんは環境政策で有名なフライブルクに住み、コンサルタントとして日独で活躍する。同書は交通と都市計画の視点から問題点をあぶり出し、将来のまちづくりについて解決策を提示する有益な書籍だ。(独ハノーバー=田口理穂)

『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか』(学芸出版/本体2200円+税)

村上さんは「戦後、高度成長期以後に始まった『持ち家&戸建て』という傾向は、核家族化という動態と、居住場所選択の自由という2点があると持続可能には機能しない。加えて、その持続可能でない住宅制度が、高齢化という動態によって交通部門への悪影響へとつながっている」と語る。

街中心部に一戸建てがひしめき、子どもが都会に出て親が高齢化することで空洞化が進んでいる。建て替えは進まず、街はさびれていく。

■街の機能の密度を充実させる「ショートウェイシティ」

ドイツも日本と同じく少子高齢化社会に向かっているが、ドイツでは街中心部は集合住宅が一般的であり、賃貸住宅も多い。レンガ造りの建物は100年以上持つので建て替えは不要で、継続的に入居者の入れ替わりがある。居住区内に店舗など非居住スペースを組み込むことで、病院や学校など市民サービスをはじめ、街の機能の密度を充実させていく。

ショートウェイシティ、すなわち移動距離が短い街である。日本でいうコンパクトシティに対応するもので、行政の主導が欠かせず、市民参加で実施すれば住民の理解が高まり、理想的だ。

車を締め出した都市が観光客の増加でにぎわい、かつ住民にとっても住みやすい街となっている。シェアドスペースと称して市中心部の道を、自転車が共存するスペースとしたドイツのある都市の例も興味深い。信号はなく、歩道と車道の区別もないが、渋滞が減り、人々の満足が高まったという。

またマイカーの所有は地域にお金を落とさないが、路面電車やバスなど公共交通網の整備は地域活性化につながる。交通公共網、自転車、カーシェアリング、市民バスなどを組み合わせて活用し、住民本位の街にすべきであるという提言である。

車第一の現代社会は変わり目に来ているのだろう。右上がりの時代が終わり、これまでにない視点を持つことが必要となっている。何を求めるのか、何を不便と考えるのか。街づくりは生活の重要な一部であり、一人ひとりが考えを巡らし、かかわっていくものなのだと感じた。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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