インパクト・マネジメントは活用へのシフト

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単純化して言ってしまえば、それは、「こういう事実がわかっていたらあの時こういう意思決定をしていたのに」と後からわかるような情報のことである。鍵は、この情報が理念や主張、憶測ではなく、事実だということだ。日本でも昨今、エビデンス・ベースという考え方が注目を浴びているが、評価研究者に言わせれば、エビデンスを提供しない評価は存在しない。つまり評価のないインパクト・マネジメントは存在しないのだ。さらに、エビデンスというカタカナも、昨今はややいい加減に使われている節もあるが、それは、少し厳密にいえば、『「AがBに対して正ないし負の影響を及ぼす」という因果命題があるとき、実証的検討による、その因果命題についての正否の言明』(2)である。

カーペンター氏のメッセージは、インパクト・マネジメントの実践によって、「こういう事実がわかっていたらあの時こういう意思決定をしていたのに」という後追いではなく、「現在進行形」でインパクトの活用を重視した意思決定ができるかもしれませんよ、というものだ。これは、ソーシャル・セクターの事業者に対する大きな励ましであり、鼓舞なのである。

(2)文化づくり
インパクト・マネジメントがインパクトの活用へのシフトだとして、事業者が注意しなければならないことはいくつかあるが、英国において最優先事項のひとつとして浮上しているのが「文化づくり」である。官民連携で立ち上がった、Impact Management Programme(3) においてもこれが強調されている。なお、マネジメントの単位が単一の組織ではあればこれは「組織文化」のこととなるが、次稿でも説明する通り単一の組織を超えることも想定しているのでここでは「文化づくり」としておきたい。
Impact Management Programme では、文化づくりの主要素には「知識・理解」、「意識・態度」、「行動」が含まれるとしている。

<インパクト・マネジメント文化の主要素(4)>
知識・理解
・事業ミッションとミッション達成への十分な理解
・事業における明確なインパクト・マネジメントの重要性への理解
・事業担当者のインパクト・マネジメントにおける自らの役割の理解
・事業担当者が自らの役割を正確に実施できる能力 

意識・態度
・インパクト・マネジメントを通した事業の向上を信じ、取り組む
・ミッション達成のためには結果に応じての変化や適応をいとわない
・どのようにすれば事業が達成されるか、より改善されるかに関心を持ち、想像すること、変革することを意識する
・学んだ事を他者と共有する
・失敗を非難せず受け入れる

行動
・改善方法を常に探求する
・質の高い、公平なデータを収集・活用する
・結果と学びを誠実に、明白に共有する
・結果について定期的に議論する
・常に事象を受益者、ユーザー目線で見るように努める
・学びの結果として事業を変更する

これらは、社会的インパクト評価イニシアチブ(SIMI)の「社会的インパクト・マネジメント・ガイドライン」(10月末をメドに公開予定)にも掲載するものだが、事業者は、これらを意識して文化づくりをすることが奨励される。それなしには、インパクト・マネジメントはかけ声倒れに終わり、インパクト活用へのシフトは実現できないというわけだ。

インパクトの活用を重視した意思決定について、英国の経験から私たちが学び、日本のソーシャル・セクターの伸長につなげることができるか、議論の広がりと深まりが求められている。

<追記>
そもそも「インパクト」ということばは、英語でも日本語でも多義的なものであり、これについて話し合う場合、共通の理解でこのことばが使われているかに常に注意が必要なものである。SIMIでは、『「社会的インパクト」とは、事業の結果として生じた、短期・長期の、社会的・環境的な変化・効果をさす』という内閣府の定義(5)を踏襲しており、そこの4つの「〜でない」が基本にあることを理解しておきたい。

1. 長期的な結果のみをインパクトとして考えているのではない。

2. 大規模な取り組みにより派生する事態のみをインパクトとして考えているのではない(むしろ、小規模の取り組みの方が革新的な取り組みがやりやすかったり、組織としての動きやすさがより自由だったりして、投入との比較でみてより大きなインパクトを生むということも十分あり得るでしょう)。

3. 数値化されていないとインパクトとして認められないわけではない。

4. 「正」の(ポジティブな)変化のみをインパクトとして考えているわけではない。評価研究者のあいだでは、「インパクト」の考え方には基本的に3種類あるという整理をしている。SIMIでは、このうちのタイプ3、すなわち「介入行為による純粋な変化量」に近い考え方を採っている。

図1:「インパクト」の3種類のとらえ方(6)

<注記>
(1) http://www.socialvalueuk.org/impact-management-is-a-state-of-mind/
(2)愛知県社会的インパクト評価丸ごと研修①社会的インパクト評価を知る(18年7月26日)における津富宏氏(静岡県立大学)の発表資料より
(3) https://impactsupport.org/
(4) https://impactsupport.org/culture/what-impact-management-culture/
(5) 内閣府共助づくり懇談会社会的インパクト評価ワーキング・グループ『社会的インパクト評価の推進に向けて』(H28.3月)より
(6) 佐々木亮氏「評価士養成講座第18期資料」より一部改訂

◆今田克司(いまた かつじ)
(一財)CSOネットワーク代表理事、(特活)日本NPOセンター副代表理事、(一社)SDGs市民社会ネットワーク業務執行理事。米国(6年半)、南アフリカ(5年半)含め、国内外の市民社会強化の分野でNPOマネジメント歴24年。2015年度内閣府社会的インパクト評価ワーキンググループ委員、社会的インパクト評価イニシアチブ共同事務局メンバー、日本評価学会研修委員会メンバーなど、NPOに評価文化を根づかせる試みでも牽引役を果たしている。

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一般財団法人CSOネットワーク
1999年に設立、2011年一般財団法人化。「公正で持続可能な社会に向けた価値ある取り組みを見出し、マルチステークホルダーの参画による社会課題解決を促す」をミッションとし、社会的責任・サステナビリティ推進事業、地域主体の持続可能な社会づくり、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」推進、社会的インパクト・マネジメント事業(インパクト・マネジメント・ラボ)など、幅広い取り組みを行っています。 ウェブサイト:http://www.csonj.org/about/  フェイスブック:https://www.facebook.com/csonj

2018年10月4日(木)14:03

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