「聴覚情報処理障害」についてテレビのニュースで取り上げられていました。
「音量は普通に聞こえるのに、言葉が聞き取れないという症状に3年くらい悩まされています」
女子学生があげたこのツイートが拡散、「私もそうだ」と同じ症状に悩む人が次々と苦しさを訴え始めました。この症状を「聴覚情報処理障害」と言うのだそうです。
「音は聞こえていても、話し声はよく聞き取れない」
そんな症状に悩む投稿がツイッターにあがると1万8000回以上リツイートされるなど、急速に拡散したようです。理由や原因が分からずに不安に思っていたところ、こうした機能障害があると知り、少し落ち着いたという方もいらっしゃるようです。
NHK NES WEB「聞こえるのに、聞き取れない私」(2018年9月26日)によると要因としては下記などが挙げられています。
・聴力に関係する脳の一部に障害を受けたことがある
・幼児期に中耳炎に長期間かかったことがある
・睡眠がうまく取れていない
・発達障害の傾向がある
患者の機能障害ということで結論付けされているようですが、大きな、そして重大な要因が欠落しているように思えてなりません。
それは指向性の強い音が、世の中に無制限に溢れ出ているということです。
WHO(世界保健機構)は2015年、世界の11億人もの若者がスマートフォンを含む音楽機器や、バーやクラブ、スポーツイベントなどで大音量にさらされることで、難聴のリスクを抱えていると発表しました。
一方で、聴覚情報処理障害がある人たちのなかには、話し声がよく聞き取れず、コミュニケーションの機会を敢えて減らすためにヘッドフォン、イヤフォンをすることもあるといいます。社会と隔絶するために、さらに指向性の強い音を直接聴覚に浴びてしまうわけです。
街にはあらゆる角度から指向性の強い音が宣伝広告として流れ、聴覚に休む間もなく刺激を与え続けています。多くの人は朝目覚め、活動を始めたときから、指向性の強い音に晒され続けています。テレビ、ラジオ、携帯電話、パソコン、駅のアナウンス、商店街の音楽、巨大なスクリーンと巨大な音声。夜、寝るときまで、休む間もありません。聴覚は緊張の連続を強いられています。
いや、不眠に悩まされている人が何とか眠りにつこうとヘッドフォンやイヤフォンで安眠用の音楽などを聴いている場合も多いようです。
このような環境の中で、人の声、謂わば自然音が突然発せられても、対応しにくいのは当たり前ではないでしょうか。言葉が聞き取れないのではなく、おそらくは人の声が聞き取り難くなっているではないかと思われます。
指向性の強い直接的な音と、そうではない指向性の弱い自然な音との違いは、ヴァイオリン奏者のことを思い浮かべて頂くと分かり易いと思います。
ヴァイオリニストは左耳から10センチも離れていない弦と弓の摩擦音を聴いているわけですが、たとえフォルテシモで強く弾いても、決してうるさい!とは思わないでしょう。それは摩擦の起きたある1点から宇宙に向って均等に広がる指向性のない自然な音だからです。
ところが指向性の強い従来のスピーカーを肩の上に載せ、耳から10センチのところで鳴らしたら、これはもう拷問に近いうるささであることは明らかです。聴覚は脳の中枢にある知覚センターへ一番近いところに位置するセンサーですので、その影響はとても大きいのです。日本補聴器工業会の調査によると、ご自身が難聴だと思っている人の割合は11%に上ります。日本の人口に当てはめると、1億2600万人のうち、1430万人が難聴だと感じていることになります。
視力はすぐにでも補正するのですが、聴力に関してはなかなか実施が難しく、補聴器をつけている人はそのうちの13%に過ぎず、しかも着けている人の満足度も低く39%しかありません。
これは高齢化している人口構成にも関連してくると思われますが、同時に私たちを取り巻く環境が指向性の強い音に覆われていることにこそ問題の核心があるように思えてなりません。
聴覚情報処理障害という名前を付けられた患者さん個人の問題なのか、それとも情報という名のもとに放置された指向性の強い直接音が撒き散らされている環境の問題なのか、いま、この機会に詳しく議論されるべきだと思います。