このように社会的価値に重きを置きながらも、やはり意識的にも無意識的にもどうしても経済的価値に寄っていく感を拭いきれない。「戦略の核心は『勝つ』ことにある」「求められるのは『勝ち方』の変化である」という本書の言い回しにもそれが現れている。
その理由は、避けて通れないあの根源的な問い―経済的価値と社会的価値のどちらを優先するのか―が常に私たちの意識の底に横たわっているからではないか。この問いに対する私見を述べるとすれば、経済的価値も社会的価値もどちらも、である。
しかし今顕在化している社会的課題の多くは、企業の経済的価値を優先したことに起因するものも少なからずあり、その潤沢なリソースをなりふり構わず経済的価値のために投入したら歯止めが利きにくく、社会的価値を毀損しないという保障はどこにもない。
そうだとすれば、私たちが思うよりもっと意識的に、社会的価値を優先させることで現実的にはちょうど良いバランスがとれるのではないか。