社員をサーフィンに行かせる本当の理由(オルタナ創刊号)イヴォン・シュイナード(米パタゴニア社創業者)独占インタビュー

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(オルタナ編集長 森 摂)

――「社員をサーフィンに行かせよう」という言葉はどんな経緯で生まれたのですか。

創業メンバーのトム・フロストが共同経営者だったころ、彼がヒマラヤに3カ月くらい登山に行き、その間は私が経営を見ていました。逆に私が南米に半年山登りに行くと、彼が会社を見てくれました。そのころから、このフレーズは社内の「非公式な」ルールになったのです。

――本当に、社員はいつでもサーフィンに行って良いのですか。

もちろんです(笑)。だからパタゴニアの本社(カリフォルニア州ベンチュラ市)も、日本法人(鎌倉市)も、太平洋岸にあるのです。サーフィンに行くのは平日の午前11時だろうが、午後2時だろうが構いません。私はあらゆるスポーツの中でサーフィンが好きなのでこの言葉を使いましたが、登山、釣り、自転車など、他のどんなスポーツでも構いません。

――なぜ、このフレーズを社内に浸透させることが重要なのでしょうか。

実はいくつか狙いがあります。その第1は「責任感」です。今日サーフィンに行っても良いか、いつまでに仕事を終えなければならないか、いちいち上司にお伺いを立てるようではいけません。もしサーフィンに行くことで仕事が遅れたら、夜や週末に仕事をして、遅れを取り戻せば良いのです。そんな判断を社員一人一人が自分で出来るような組織を望んでいます。

第二は「効率性」です。自分が好きなことを思いっきりやれば、仕事もはかどります。午後に良い波が来ると分かれば、サーフィンに出掛けることを考えます。その前の数時間の仕事はとても効率的になります。

例えばあなたが旅行を計画したとすると、出発の前の数日間は仕事をテキパキやるでしょう。旅行中に同僚に迷惑を掛けたくないこともあるでしょう。あるいは旅行を前に気分が高揚して仕事が進むのかも知れません。その気分を日常的に味わえるのがパタゴニアなのです。

――サーフィンをやろうとしても、いつ良い波が来るか分かりませんね。

そうです。だから、第3の理由として「融通をきかせること」があるのです。サーフィンでは「来週の土曜日の午後4時から」などと前もって予定を組む ことはできません。もしあなたが真剣なサーファーやスキーヤーだったら、いつでも良い波が来た ら、あるいは良い雪になったらすぐに出掛けられるように、常日頃から生活や仕事のスタイルをフレキシブルにしておかなければなりません。

第4は「協調性」です。パタゴニアには、「僕がこれからサーフィンに行っている間に取引先から電話があると思うので、受けておいてほしい」と誰かが頼むと、「ああ、いいよ。楽しんでおいで」と言える雰囲気があります。

そのためには、誰がどういう仕事をやっているか、周囲の人が常に理解していなければなりません。一人の社員が仕事を抱え込むのではなく、周囲がお互いの仕事を知っていれば誰かが病気になったとしても、あるいは子供が生まれて3カ月休んだとしても、お互いが助け合える。社員同士が信頼しあってこそ、機能する仕組みです。

だから、私たちの会社には、よくアメリカの会社にあるようなパーティションは一切ありません。CEO(最高経営責任者)や私の執務室も個室ではなく、誰もがいつでも自由に出入りできるようにしてあります。私はいつでも社員食堂でご飯を食べ、社員たちと仕事やスポーツの話をする。

――このフレーズに魅せられて、入社を希望する人も多いそうですね。

第5の狙いは「真剣なアスリート」を多く会社に雇い入れ、彼らを引き止めることです。もし優秀なスキーヤーが入社すれば、ひと月はスキーに行きたいと言うでしょう。それを止めると、毎日スキーができるスキーメーカーに転職してしまうかも知れません。

なぜ、真剣なアスリートを多く雇いたいのか。それは、私たちはアウトドア製品を開発し、製造し、販売しているからです。自然やアウトドアスポーツについて誰よりも深い経験と知識を持っていなければなりません。そのためには、より多くのプロフェッショナルを雇わなければならないのです。

――この精神は、会社が従業員を信頼していていないと成立しませんね。

そうです。社員が会社の外にいる以上、どこかでサボっているかも知れません。経営者がいちいちそれを心配していては成り立ちません。私たち経営陣 は、仕事がいつも期日通りに終わり、きちんと成果をあげられることを信じていますし、社員たちもその期待に応えてくれています。お互いに信頼関係があるからこそ、この言葉が機能するのです。

パタゴニアの日本法人でも「サーフィンに行こう」と奨励していますが、やはり日本人の勤勉性ゆえか、勤務時間中にスポーツに出掛けることに「罪悪感」を持つ人がまだ多いようです。しかし、少なくとも、誰かがスポーツに出掛ける時に、それを止める人はいません。

――ご自身も、スポーツのために会社に来ない日が多いそうですね。

世界中の自然を渡り歩いています。およそ1年の半分は会社にいないでしょう。サーフィン、フライフィッシング、フリーダイビング(素潜り)。山登り はしばらく休んでいましたが、再開しました。テニスもよくやります。

これを私なりにMBAと呼んでいます。「経営学修士」ではなく、「マネージメント・バイ・アブセンス」(不在による経営)です(笑)。

いったん旅行に出ると、私は一切、会社には電話しません。社員たちの判断を尊重したいからです。旅行には携帯電話やコンピューターなど一切持ちません。そして、私が不在の時に彼らがした判断を後で覆すことはありません。それが彼らの自主性を高めるために大事だからです。

2010年2月5日(金)17:39

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