ラッシュが入浴剤の名前を「DEI」に、その狙いは

記事のポイント


  1. 英ラッシュはバスボム3種の名称をDEIに変更した
  2. 背景には、米国を中心とした反DEIの圧力がある
  3. ヒラリー・ジョーンズ・エシックス・ディレクターに真意を聞いた

英国発のコスメブランド・LUSH(ラッシュ)は、トランプ米大統領就任直後、米国で販売するバスボム(入浴剤)3種の名前をそれぞれ「ダイバーシティ(多様性)」「エクイティ(公正性)」「インクルージョン(包摂性)」に変更した。5月からは日本でも販売を開始した。英ラッシュのヒラリー・ジョーンズ・エシックス・ディレクターに、その真意を聞いた。(オルタナ輪番編集長・吉田広子)

英ラッシュのヒラリー・ジョーンズ・エシックス・ディレクター

■長年にわたる闘いが一気に覆された

――米国では、これまでもESG(環境・社会・ガバナンス)やDEIに反対する動きがありましたが、トランプ大統領就任後は勢いを増しています。この状況をどう受け止めていますか。

米国で起きていることには、本当にがっかりしました。というのも、マイノリティの人たちが自らの権利を獲得するまでには、何十年にもわたる努力が必要でした。それが、あっという間に後戻りしてしまったのです。

大統領令によって、すべての連邦機関がDEIプログラムを中止するよう命じられました。DEI研修も取り下げられました。しかし、影響はそれだけではありません。実際には、行政命令の対象外であるはずの民間企業までもが、同じようにDEIプログラムを縮小し始めたのです。

「ダイバーシティ」「エクイティ」「インクルージョン」という言葉そのものが社会から消されていくように感じました。私たちが懸念したのは、マイノリティの人たちが、「自分たちはもう見えない存在にされ、支援も失われた」と感じてしまうことでした。

■「DEI」という言葉を消してはいけない

ダイバーシティの名前が付いたバスボム
ダイバーシティの名前が付いたバスボム

――だからこそ、各社がDEIプログラムを縮小する中で、ラッシュはバスボム(入浴剤)の名前をDEIに変えたのですね。

他の企業が削除し始めた今だからこそ、私たちはDEIの言葉をもっと可視化しようと思ったのです。人気のバスボム3種をそれぞれ「ダイバーシティ」「エクイティ」「インクルージョン」という名前をに変えました。トランプ大統領が就任して2日後のことです。

――米国の反DEIの動きが、日本にも影響するのではないかと懸念しています。企業がDEIをはじめとする社会課題について声を上げることは、大切だと考えますか。

もちろんです。ラッシュにとって「DEI」はとても重要な価値です。

ラッシュは多様な人たちによって構成されている企業ですし、多様なマイノリティの人たちが、ラッシュで働き、共にモノづくりをしている。それが、創業当初からラッシュという会社を強くし、豊かにしてきました。

人権やLGBTQの権利、環境問題、動物保護――そういった問題について声を上げることは、私たちにとっては当然のことです。

ラッシュで働く人たちが、そうしたテーマに関心を持っていて、実際にその当事者や支援者として社会とつながっている。ですから、企業としても、その声を届ける責任があると思っています。私たちは、ラッシュという企業を「声を届けるためのプラットフォーム」にしたいのです。

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yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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