記事のポイント
- サンゴ礁が世界で初めて気候のティッピングポイントを超えた
- サンゴ礁は海洋生態系だけでなく人々の生計も支える重要な存在だ
- しかし海水温の上昇で、サンゴ礁の大部分が白化か死滅状態に追い込まれる
国際的な報告書によると、サンゴ礁が世界で初めて気候のティッピングポイント(不可逆な変化が始まる転換点)を超えた。世界の平均気温がティッピングポイントを超えると、温水域に生息するサンゴ礁の大部分が白化または死滅状態に追い込まれる。サンゴ礁は海洋生態系を支えるだけでなく、人々の生計も支え、自然災害から守ってくれる重要な存在だ。温暖化を逆転させる「好循環のティッピングポイント」を引き起こす必要がある。(米テキサス州・宮島謙二)

■サンゴ礁はすでに不可逆な気候の転換点に到達
23カ国160人以上の科学者らが共同執筆した報告書「グローバル・ティッピングポイント2025」によると、地球の平均温度が産業革命前の水準から1.4℃上昇した今、サンゴ礁が世界で初めて気候のティッピングポイントを超えた。
「ティッピングポイント」とは、継続する小さな変化が、元に戻せないような急激な変化に変わる「転換点」を指す。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書は、1.5℃の温暖化でサンゴの70~90%が、2℃の温暖化で99%以上が死滅すると推定するが、今回の新たな報告書は、サンゴ礁のティッピングポイントを1.2℃上昇(下限1℃~上限1.5℃)と置く。
パリ協定の「1.5℃目標」を達成しても、温水域に生息する大部分のサンゴ礁が白化または死滅に追い込まれると科学者らは指摘する。
■相次ぐ海洋熱波で過去最大規模の白化現象が進行中
ティッピングポイント超えにより地球規模の白化・死滅に向かう兆候は、観測史上最も暑かった過去2年で顕著だ。
温暖化に伴う海洋熱波によって、世界のサンゴ礁の84%が白化状態となり、一部は死滅した。オーストラリアのグレートバリアリーフの一部では、調査を開始して以来、サンゴ礁が最大の減少を記録した。
■「海の熱帯雨林」の保護が急務に
サンゴ礁は海洋生物の4分の1が生涯のどこかの時点で関わるとされ、生態系を支える「海の熱帯雨林」と呼ばれる。海洋生物にとって不可欠な生態系を形成しているサンゴ礁の死滅は、海のバランスの不安定化につながるおそれがある。
サンゴ礁は、息をのむようなその美しさで人間を楽しませるだけでなく、沿岸地域の保護や漁業、炭素循環にも貢献している。サンゴ礁を必要としているのは、海洋生物だけではない。人間の生計も支え、自然災害から守ってくれる不可欠な存在なのだ。
報告書は、グリーン技術などを通じて温暖化を逆転させる「好循環のティッピングポイント」を引き起こす行動が、安全で公正、かつ持続可能な未来への道筋だと強調した。



