ポストSDGsとプラチナ社会: 小宮山宏・元東大総長に聞く

記事のポイント


  1. SDGsは、世界に共通の「目標言語」を与え、多くの主体を動かしてきた
  2. だが、ポストSDGsを見据えて、先進国はどのようなビジョンを持つべきか
  3. ポストSDGsを考えるには、「プラチナ社会」構想がヒントになる

SDGsは、世界に共通の「目標言語」を与え、多くの主体を動かしてきたが、成熟した先進国がこれからどのような社会像を描くのかは、十分に語られてきただろうか。本連載では、その問いに向き合い続けてきた「プラチナ社会」構想に注目する。この構想に、理論と実践の両面から取り組んできた小宮山宏氏(三菱総合研究所理事長・第28代東京大学総長、一般社団法人プラチナ構想ネットワーク会長)に話を聞き、資源自給・生涯成長・住民出資という視点から、次の社会像を探っていく。(千葉商科大学客員教授/ESG・SDGsコンサルタント=笹谷秀光)

■SDGsには「先進国の課題が十分に盛り込まれていない」

SDGsが国内で広がるにつれ、ある違和感が強まっていった。それは、「先進国の課題が十分に盛り込まれていない」という点である。この問題を当初から指摘してきたのが、小宮山宏・三菱総合研究所理事長・第28代東京大学総長だ。小宮山氏は、先進国が直面する課題に対し、「プラチナ社会」という考え方から一貫してアプローチしてきた。

SDGsは、開発途上国を含め、世界全体の底上げを目的として設計された枠組みである。その意義は大きい。一方で、物質的に成熟し、社会が飽和段階に入った先進国が、次にどのような社会像を引き受けるのかという問いは、十分に言葉にされてこなかった。

そこで筆者は、SDGsをすべての国が共有すべき「規定演技」と捉える。しかし、その先には、成熟した先進国だからこそ引き受けるべき「自由演技」がある。そうした問題意識から、筆者の最新刊ではビヨンドSDGsと経営を描き、ウェルビーイングも意識したSDGs「18番目の目標」を提案した。

本稿では、この問題意識の下で、小宮山氏へのインタビューを通じて、プラチナ社会構想がどのような背景から生まれ、何を目指しているのかを読み解いていく。

小宮山宏理事長(左)と筆者

■「プラチナ社会」、222自治体と182法人が賛同

小宮山宏氏は、一般社団法人プラチナ構想ネットワーク(2010年8月任意団体設立、2022年1月法人化)の会長を務めている。同ネットワークは、2025年12月現在、222自治体、182の法人など計494会員が参画している。

プラチナ構想ネットワークは、課題先進国である日本を課題解決先進国へと導くことを使命とし、「地球が持続し、豊かで、すべての人の自己実現を可能にする社会」を「プラチナ社会」と定義。あわせて「プラチナ大賞」という表彰制度を設け、受賞自治体を「プラチナシティ認定自治体」として認定。2025年12月時点で94自治体が認定を受けており、その多くは国から「SDGs未来都市」に選定された自治体でもある。

プラチナ社会の定義は一見抽象的に見えるが、小宮山氏は「重要なのは、地球の持続性と、人々の『自己実現』を同時に成立させる点にある」と強調する。その構想の背景には、二つの思想的な原点があるという。

一つは、1972年にローマクラブが示した「成長の限界」である。成長を前提とした社会モデルには限界があり、短期的な経済成長ではなく、長期的な持続性を基軸に社会を考える必要があるという認識である。

もう一つが、宇沢弘文の『自動車の社会的費用』(1974年)や『社会的共通資本』(2000年)で示された「社会的共通資本」の考え方だ。自動車は利便性をもたらす一方で、事故や公害など社会的負担を生み出す。社会の基盤となる資源や制度(社会的共通資本)は、市場原理だけに委ねるのではなく、社会全体で管理されるべきだという視点である。

地球の有限性という認識と、社会的共通資本という視点。この二つが重なったところに、プラチナ社会構想の原点がある。

小宮山氏は、戦後日本の成長過程を「途上国型」の段階として捉えている。電気洗濯機や冷蔵庫、自動車といった製品が人々の生活を大きく変え、社会全体を前に進めた時代である。1950年代半ばから1970年代前半にかけての高度成長期には、実質GDPが年平均10%前後で成長し、所得倍増論も現実味を持った。

しかし、こうした成長段階はすでに終わっている。日本や欧米は物質的に成熟し、同じやり方を続けても社会は前進しない。「成熟社会」で問われるのは、成長の量ではなく、その「質」である。

プラチナ社会では地球の持続可能性と人々の自己実現の両立を目指す(プラチナ社会構想ネットワークHPから)

資源自給・生涯成長・住民出資の「プラチナ社会」

プラチナ社会の第一の柱は、物質とエネルギーの制約を前提とした「完全循環社会」である。日本社会はすでに物質的に飽和しており、自動車は約6000万台に達し、建物の床面積も大きく増える余地はない。

一方で、飽和した社会からは大量のスクラップが生じる。排出される鉄スクラップの量は、新たに必要とされる鉄の量とほぼ同水準にあり、地下から鉄鉱石を採掘し、石炭を燃焼させて鉄を生み出すモデルは、理論上は不要になり得る段階だ。都市で廃棄される家電製品などからレアメタルを回収する「都市鉱山」も、重要な資源である。

課題は、それらを再利用するために必要なエネルギーであり、再生可能エネルギーが不可欠となる。有機物についても同様で、森林を伐採し農地を拡大する資源消費型のモデルは限界を迎えた。これからは森林を持続的に成長させるバイオマス資源として位置づけ、木材や紙はその成長分で賄うという考え方である。

都市鉱山、再生可能エネルギー、バイオマスの成長分。この三つがそろうことで、物質的に見た「完全循環社会」が成立する。こうした理念を現実の社会として動かすために、小宮山氏は企業の力と産業としての成立を重視してきた。

10年余のネットワークの活動を通じて見えてきたのが、「健康・自立」「森林・一次産業」「再生可能エネルギー」「人財成長」「観光」という五つの産業分野である。これらを通じて、日本は資源を自給し、人が生涯にわたって成長し続け、住民が社会の基盤となる産業に出資する社会へと移行できる。その姿こそが、プラチナ社会である。

具体的な取り組みも始まっている。2022年には森林産業イニシアティブが立ち上がり、2050年を見据えたビジョンと森林循環経済のあり方が提示されている。続いて再生可能エネルギー産業イニシアティブも始動し、構想はすでに社会実装の段階に入っている。

さらに、プラチナ社会を支える柱として「住民出資」がある。エネルギーを「買うもの」から「自分たちで持つもの」へと転換し、地域(市町村)単位で電力を生み、その事業体を住民が所有する。昨年のNISA投資額27兆円のうち、約2兆円を国内に回すだけで、電力産業を自分たちの会社として構築できるという構想も示されている。

資源自給、生涯成長、住民出資という三つの視点が、成熟社会におけるプラチナ社会の骨格を形づくっている。

■「ビヨンドSDGs」という国際的アジェンダに向けて

小宮山氏の発言と、各地で進んできたプラチナ構想の実践を踏まえると、ビヨンドSDGsという国際的議論の中でプラチナ社会をどう位置づけるかが論点になる。以下は、その点に関する筆者の整理である。

2024年の国連未来サミットで、2027年9月から新たな枠組み「ビヨンドSDGs」の検討開始が合意された。各国はビヨンドSDGsの提案が求められている。2015年にできたSDGsは貧困、教育、保健、環境などを可視化し、共通言語を与えた。しかし、それは成熟した先進国の課題や次世代の社会像までは示していない。

この空白に対し、ビヨンドSDGsは、各国が自国の社会段階に応じた責任と経験から新たな目標を提示する場になる。そのとき、日本が示し得る有力な提案の一つが、プラチナ社会の理論と実践である。プラチナ社会は理念の提示にとどまらず、資源循環、エネルギー自立、人財育成、住民出資といった実装の積み重ねとして形を持っているからだ。

また、プラチナ社会が目指すのは、幸福やウェルビーイングを社会が一律に定義することではない。小宮山氏が繰り返し語るように、社会の役割は、個々人の「自己実現」を可能にする条件を整えることにある。地球の有限性を前提に、物質とエネルギーの流れを組み替え、産業として成立させ、住民が主体として関わる。その積み重ねが、自己実現の土台になる。

SDGsが世界共通の「規定演技」だったとすれば、ビヨンドSDGsで問われる「自由演技」とは、成熟社会としてどのような豊かさを目指し、何を次世代に残すのかという問いである。筆者はウェルビーイングも含めて「第18番目の目標」を最新刊で試案として示した。プラチナ社会は、それに向けた日本からの現実的な提示になり得ると実感させられた。

これまで17色のSDGsであったが、18番目の目標の色は「プラチナ」色であろう。

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笹谷 秀光(経営コンサルタント)

東京大学法学部卒。1977年農林省入省。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年~2019年4月伊藤園で、取締役、常務執行役員等を歴任。2020年4月~24年3月千葉商科大学教授。博士(政策研究)。現在、千葉商科大学客員教授。著書『Q&A SDGs経営増補改訂最新版』(日本経済新聞出版社・2019年・2022年改訂)、『競争優位を実現するSDGs経営』(中央経済社・2023年)。 笹谷秀光公式サイトー発信型三方よし 執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs#プラチナ社会

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