児童養護施設の深刻な職員不足解消に取り組むNPO法人チャイボラ(東京・豊島、大山遥代表)が、全国展開の足がかりとして、クラウドファンディングに挑戦中だ。同NPOは都内を中心に、公費で運営する施設では捻出しにくい人材確保に必須の「広報活動」や、施設職員の相談窓口を設置し、職員の定着を促している。5年の活動でノウハウが集積された今、この活動を全国に広げる方針だ。代表の大山遥さんに詳しい話を聞いた。(寺町幸枝)
チャイルド+ボランティア=チャイボラ
NPO法人チャイボラは、代表の大山さんが施設職員を増やす手段として、情報開示があまりされていない児童養護施設など社会的養護の施設と、就職希望者をつなぐために作った「チャイルド・ボランティア」の活動がきっかけで創設された。
全国に約600カ所ある児童養護施設は施設職員が十分足りていない施設も多い一方で、社会的養護の施設全体でみると「ホームページすらない施設も多く、国と自治体からもらう予算の中に、広報費という勘定科目がないために、人材確保に必要な情報発信に関する予算を割けない施設が多い」と大山さんは指摘する。
チャイボラは現在、運営するサイト「チャボナビ」を通じて、児童養護施設など社会的養護の施設に関する詳細な情報や、各施設の見学会の情報を掲載。見学会は企画から当日の運営も行う。いずれも無償で提供している。また、施設職員が長期的に安定して仕事を続けられるよう、アプリを通じたホットラインを構築。仕事や人間関係の悩みを元職員経験者に匿名で相談できる窓口も提供している。
「知らない」が生む施設の人材不足
大山さんは、児童養護施設で働く資格を取得するために通っていた専門学校での経験を、思い返す。「入学当初、36人いたクラスメイトのうち、児童養護施設という言葉を知っていた人はたった4人しかいなかったことに衝撃を受けた」。そしてその原因が、児童養護施設に関する情報が社会に共有されていないことだと気が付いたという。
「どこにどんな施設があって、どんなふうに職員が働いていて、どんな給与体形なのか。いつ募集要項が出て、いつ採用試験があるのかと言った情報がほとんど出回っていない。特にネットに正しい情報がないと、今の時代は福祉や教育に関心ある若者と、児童養護施設がつながりを持つのが難しい」と大山さんは続ける。
やり方次第で関心ある人と施設はつながる
こうした状況を打破すべく、大山さんと同級生がはじめたのがチャイルド・ボランティア活動だった。児童養護施設に関心を持つ人たちと施設を「遊びボランティア」としてつなぐことで、両者の距離を縮めていった。チャイルド・ボランティアの活動は、回を重ねるごとに参加者が増えたことを受け、より就職を意識した見学会や説明会の開催へ次第にシフトしていったのだという。
大山さんたちの活動を通じて、見学会の集客を増やし、採用につながる経験をした施設長が、その後積極的にチャイボラの活動を広めてくれた。これにより一気に都内の施設から、見学会開催の依頼が増えた。NPOの立ち上げから21年目の今年、クラウドファンディングを通じて資金を集め、社会的養護に関する情報を一覧で調べられるウェブサイト「チャボナビ」を立ち上げた。
さらに、施設職員と一緒に施設の現状や仕事のやりがいについて保育や福祉関連の学校で「出張授業」を開始し、関心者をつなぐだけでなく、関心の掘り起こし作業を行うまでになったという。
「ただいま、おかえり」の関係をいつまでも
職員の採用と同じくチャイボラにとって重要な活動が、職員の定着だ。児童養護施設の退所者であるKさんは、「長く安定して働く職員がいるだけで、ただいま、おかえりという関係性が築ける。何十年という単位で見てくれる職員が増えたらいいのに」と話す。
Kさんの退所時に担当となった自立支援コーディネーターは、Kさんが幼稚園生の頃から知っている職員だったという。「今年の春にその人が辞めると聞いた時、正直パニックになった」。幸い、新たに担当になった自立支援コーディネーターも、Kさんを小さい時から知っている職員だったという。
「気心のしれた自立支援コーディネーターの存在は心強い」と話すKさん。児童養護施設の子どもや退所者たちにとって、職員は家族のような存在だ。「安心」を提供できる唯一の存在だと言ってもいい。Kさんは子どもたちに「安心感」提供しようと活動するチャイボラを、当事者としてSNSを通じ自主的にサポートしていると話す。
コロナ禍で、疲弊する職員が増える中、今年1月に開設した相談窓口では、匿名で相談が可能だ。元児童養護施設の職員が窓口となり、必要に応じて弁護士をはじめとした専門家と連携し相談に応じている。
今回のクラウドファンディングで、こうしたチャボナビの活動をさらに全国に広めていきたいと話す大山さん。「規模の違いや、施設が置かれている環境が全く違うので、これまでの東京での成功パターンが、必ずしも地方で通用するとは限らない」と問題点を語る。
一方で、「チャイボラを通じて、本人たちが気づいていない各施設の魅力を掘り起こし、より多くの人が全国の児童養護施設に関心を持ち、長く勤められる環境を整えられると思う。チャイボラの活動で、一人でも多くの子どもたちが安心して生活できるようにしたい」と意欲を燃やす。