クマ対策は「知ること」から、市街地に出没する背景とは

記事のポイント


  1. 各地でクマの出没が相次ぎ、社会問題化している
  2. クマの問題は野生生物との共生や地域の暮らし方にも関わる課題だ
  3. 酪農学園大学の佐藤喜和教授に、クマ問題の背景や必要な対策について聞いた

各地でクマの出没が相次ぎ、社会問題化している。クマの問題は、人的被害や農作物への影響にとどまらず、野生生物との共生や地域の暮らし方にも関わる課題だ。酪農学園大学の佐藤喜和教授に、クマ問題の背景や必要な対策について話を聞いた。(オルタナ輪番編集長・吉田広子、北村佳代子)

佐藤喜和・酪農学園大学教授

佐藤喜和(さとう・よしかず)
酪農学園大学酪農学研究科長教授
北海道大学農学部卒業後、2002年に東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。日本大学生物資源科学部准教授などを経て、2014年より現職。フィールドワークを通じ、野生動物、特にヒグマの生態を専門に研究している。著書に『アーバン・ベア となりのヒグマと向き合う』(2021年、東京大学出版会)がある。

――最近、「クマが冬眠しない」という報道を目にします。クマが冬眠しなくなってきているのでしょうか。

北海道や東北では、クマはほぼ冬眠に入っていると考えていいと思います。

この数年、1月に入ってからも「クマの足跡がある」といった情報が寄せられることがありますが、すべてのクマが冬眠しないで起きている、というわけではありません。冬眠中に何らかの攪乱(かくらん)があって、一時的に目を覚まし、歩き回るクマが出てくることはあり得ます。

そうしたクマも再び冬眠に入ると考えられます。ですから、こうした情報が出たとしても、過剰に反応する必要はありません。

人慣れし、警戒心が薄れた「アーバンベア」

――そもそもなぜクマは人里や市街地に出没するようになったのですか。

2025年、特に大きな問題だったのは、クマが冬眠前に脂肪を蓄えるための木の実が不作だったことです。北海道や東北では、ドングリが実るミズナラやブナなど、いわゆる堅果類が凶作でした。

クマはエサを求め、食いだめをしようとする。北海道では住宅地沿いの公園や川沿いにクルミの実が落ちており、東北では集落に柿の実がなっています。これが、秋口に大きな問題になった背景です。

まだ理由ははっきり分かっていない部分もありますが、大凶作になる年というのは、木の実がつく前の夏ころから、クマの出没が増える傾向があります。2025年は、北海道でも東北でも、7月ごろからクマの出没が目立っていました。

その時期は、ちょうど人里では畑に作物がある時期です。北海道では小麦やサクランボ、プルーンといった果樹園で被害が出ました。8月以降になるとトウモロコシへの被害も多くなりました。

東北でも、稲を食べる被害が見られたほか、夏から秋にかけては果樹園などへの被害にも広がっていきました。

結局、山にエサがなさそうだと分かったときに、クマたちは「人里に下りればエサがあるから大丈夫」という行動パターンを取るようになってきているわけです。

――昔から人里には食べ物はあったと思うのですが、何が変わってきているのでしょうか。

ここ30年ほどの間に、クマの個体数は徐々に回復してきました。

一方で、人間側は、クマを積極的に追いかけることは少なくなり、出てきたクマだけを捕獲するという対応に変わってきました。さらに、山際の集落では、人口減少や高齢化が進み、クマが出ても追い払わない、そもそも人に出会わないという状況が増えています。犬に吠えられることも減っています。

その結果、じわじわと数を増やしてきたクマたちは、あまり人を恐れない世代になってきていると考えられます。クマにとっては、「人里」というよりも、自分の生息地の一部のような場所になっていったのだと思います。

そのため、ばったりと人と出会ったときに、人を排除しようとして攻撃してしまう。そうした形で事故が起きてしまうのです。

――クマとしては、自分の縄張りだと思っている可能性もあるのですね。クマの警戒心はどのように育まれるのですか。

正直なところ、よく分からない部分もあります。ただ、やはり一番効果的なのは、クマ自身が危険な目に遭う経験だと思います。例えば、人に追われて走って逃げた、などですね。そうした経験が、母親から子どもに伝えられることもあるのだろうと思います。

感覚的な話になりますが、北海道の山奥にいるクマは、人に出会うと逃げることが多いです。必ずしも追いかけられた経験があるというわけではないと思いますが、シカ猟などで山に入った人たちと出会うことがあります。そうした経験が、「人に会ったら逃げる」という行動につながっているのではないかと思います。

一方で、人里に近いクマほど、人に追われた経験が少ない。その反面、ハイキングなどで人と出会う経験は非常に多い。車の音や工事の音も聞こえる環境で育っています。

そうした環境で暮らすクマたちは、「人間は自分に直接危害を加えるものではない」と学習しているのではないかと思います。

■「人間」と「食べ物」が結びつくのが危険

――そうすると、山の奥にいるクマよりも、人間の生活圏に出没する「アーバンベア」の方が警戒心は薄く、より危険ということになるのでしょうか。

人の暮らしの近くにいるクマの方が、警戒心を失っている度合いは強いだろうと思います。

ただ、ここで注意しなければいけないのは、「警戒心を失っていること」自体は、実はメリットもあるという点です。昔から海外の研究などでも明らかになっているのですが、人に慣れていないクマほど、ばったりと人と出会ったときにパニックになりやすい。その結果、反射的に攻撃行動に出てしまうことがあります。

一方で、人にある程度慣れていて警戒心が低いクマの場合、ばったり出会っても過剰に驚かないため、すぐに攻撃的な行動に出にくい、という研究結果もあります。

ただし、警戒心がない状態のまま、人の生活圏の中でゴミや農作物を食べたりする経験を重ねていくと、話は変わってきます。「人間」と「食べ物」が結びつくと、エサを守るために近づいてくる人間を排除しようとしてしまうのです。

本当に危険度が高くなるのは、この段階です。だからこそ重要なのは、人間と食べ物を結びつけさせないことです。そこが結びついてしまうと、非常に厄介な状況になり、最終的には駆除するしかなくなってしまうのです。

――家や畑から離れたところに「エサ場を用意すれば襲われなくなる」というような、単純な話ではないのですね。

そうですね。自然の中で、山奥に実のなる木を植えるなどして、自然のエサを増やすことは問題ないと思います。

ただ、「人が関与してエサが用意される」という形で結びついてしまうと、かえって危険です。人と食べ物を結びつけないことが、非常に重要です。

(この続きは)
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吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #生物多様性

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