記事のポイント
- オランダ裁判所は、政府の不十分な気候変動対策は人権侵害との判決を下した
- 気候危機に脆弱なカリブ海にある蘭領ボネール島市民を保護する追加措置を命じた
- 判決では国の気候変動対策は義務とする国際司法裁判所の勧告的意見にも言及した
オランダ・ハーグ地方裁判所は1月28日、オランダ政府に対し、気候変動の適応策を怠ることは人権侵害だとする判決を下した。カリブ海のオランダ特別自治体のボネール島の住民を、気候危機の影響から保護するよう追加措置を命じた。判決では、政府には気候変動対策を講じる義務があるとする、2025年7月の国際司法裁判所の勧告的意見にも言及した。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

今回の訴訟は、ボネール島の住民8人と国際NGOグリーンピース・オランダが起こしたものだ。カリブ海のボネール島は、海面上昇、気温上昇、暴風雨、洪水といった気候危機に直面している。グリーンピース・オランダのマリーケ・フェレコープ代表は今回の判決を「歴史的な勝利」だと力をこめる。
ハーグ地方裁判所は、オランダ政府が欧州人権条約の第8条(私生活及び家庭生活の尊重の権利)及び第14条(差別禁止)に違反していると判断した。
ボネール島の約2万6千人の住民が気候危機にさらされているにもかかわらず、オランダ政府が気候危機から適切に住民を保護していないことは人権侵害であり、欧州本土の市民とボネール島の市民とを差別している、と判断した。
裁判所は、「気候変動の影響を、より早く、より深刻に受けるボネール島の住民に対する対策が、オランダ本土の住民に対する対策よりも遅れて、かつ体系的に行われない正当な理由はない」との声明を出した。
そして政府に対し、18カ月以内に法的拘束力のある温室効果ガス排出削減目標を設定し、同期間内に同国のカーボンバジェット(残余排出許容量)の見通しを示したうえで、2030年までに、ボネール島を含めた具体的な適応計画を策定・実施するよう命じた。
グリーンピース・オランダの気候正義の専門家イーフェ・デ・クローン氏は、「これはボネール島の住民にとって驚くべき勝利だ。裁判所は、ボネール島の人々が気候危機によって差別されていることを認定しただけでない。彼らを守るために政府がもっと多くの適応策を行う必要があるとも判断した」とコメントした。
■気候訴訟の道を開いてきたハーグ地裁
ハーグ地方裁判所が、気候訴訟で画期的な判決を下すのは今回が初めてではない。
2019年12月には、オランダ最高裁が、ハーグ地裁(2015年6月)およびハーグ高裁の判決(2018年10月)を支持する形で、「危険な気候変動被害は人権侵害」だとして、オランダ政府に対して科学が要請する温室効果ガスの排出削減を命じる判決を下した。
この先駆的な訴訟では、最初に原告らの主張を容認した2015年のハーグ地裁判決が世界から注目された。この判決は、その後、市民や環境NGOなどが政府などを被告として、気候変動対策の強化を求める気候訴訟の道を大きく開いたといわれる。
2019年のオランダ最高裁の判決はその後、2つの大きな気候変動判決でも重要な位置を占めた。
一つは、スイスの女性らがスイス政府を相手に起こした気候変動訴訟だ。2024年4月、欧州人権裁判所は、スイス政府には気候変動から市民を保護する積極的な義務があると認めた。
そしてもう一つは、2025年7月に国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見だ。すべての国は「排出量を削減し、気候を守る法的義務がある」との内容で、パリ協定など特定の条約の締約国か否かにかかわらず、すべての国が対象となる。気候変動対策をせず、化石燃料を使い続ける国家や企業は、国際法ではもはや許されないということだ。
なお、ハーグ地方裁判所は、2021年には石油会社シェルに対し排出量の大幅削減を命じる判決も下しているが、この判決は3年後に覆されており、現在上訴中だ。
■「世界中で類似の判決が相次ぐきっかけになる」と法律専門家
■ボネール島は極めて厳しい水収支に直面している

