記事のポイント
- 日本の温室効果ガス(GHG)排出量は、2020年で11億5000万トンだった
- 排出量は実際にGHGを回収してその量を測るのでなく、計算式で算出する
- 「活動量」などさまざまなパラメーターを用いて計算し、実測より正確
環境省は今年4月、2020年度の日本の温室効果ガス(GHG)排出量は11億5000万トンで、7年連続の減少と発表した。11月20日に閉幕した国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)では、1.5℃目標の達成には2030年までに排出量を43%削減(19年比)する必要があるという合意がなされた。しかしそもそも、GHG排出量はどう計測・算出するのだろうか。その方法を解説する。(オルタナ客員論説委員・財部明郎)

■実測でなく統計値から計算する
GHG排出量は、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が決めた測定方法のガイドラインに沿って測定し、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出する。これが国際的に共通したルールだ。
各国が排出量を取りまとめたものを「温室効果ガスインベントリー」といい、日本では国立環境研究所地球環境研究センターが作成する。
GHGのサンプルを実際に採取し、化学的な分析方法を使って排出量を測定することは物理的に可能だ。しかし、代表的なGHGである二酸化炭素(CO2)に限っても火力発電所、工場、自動車、暖房機器、厨房機器など排出源が多岐にわたり、これら全てを一つひとつ実測するのは現実的ではない。
しかもGHGはCO2以外にもメタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF₆)、三フッ化窒素(NF₃)の7種が規定されており、それぞれ測定方法も発生源も異なる。ではどう計測するのかというと、以下のような計算式で割り出す。
GHG排出量=活動量×排出係数×温暖化係数
「活動量」とは、その発生源からのGHG排出量に比例する何らかの数値をいう。「排出係数」は、活動量とGHGを関連付ける比例係数をいう。「温暖化係数」は、対象とするGHGがどのくらいの温室効果を持つかを意味する。例えば自動車からのCO2排出量については以下のようになる。
活動量:この場合は、燃料(ガソリンや軽油)を燃やした時に得られるエネルギー量(熱量=CO2発生量と比例)を使う。日本全体の自動車が年間に使用したエネルギー量は、資源エネルギー庁が取りまとめている「総合エネルギー統計」から得られる。
例えば2020年の統計では輸送部門で使われた燃料のエネルギーについては、ガソリンは1,451,844TJ、軽油は917,550 TJだった。これが、この場合の活動量だ。なおTJ(テラジュール)は、エネルギーの単位で、基本単位J(ジュール)の1012倍になる。
換算係数:使った燃料のエネルギーと、そこからCO2として発生する炭素の間の比例係数を指す。1TJ分のエネルギーをガソリンや軽油を燃やして得るときに、何トンの炭素が排出されるかという係数だ。この場合は、燃料に含まれる炭素の重さを高位発熱量で割って求める。ガソリンの場合は18.7 t-C/TJ、軽油の場合は18.8t-C/TJという数値になる。
温暖化係数: CO2の温室効果を「1」としたとき、その何倍の温室効果があるかという数値で、この場合はCO2そのものなので温暖化係数は1となる。
ただし、この計算で算出できる数値は、排出されたCO2に含まれる「炭素C」の部分の重さだ。これをCO2量に換算するには、44/12を掛ける(44はCO2の分子量、12はCの原子量)。
以上を先ほどの式「活動量×排出係数×温暖化係数」に当てはめると、炭素排出量が出てくる。
ガソリンの場合、
・活動量=1,451,844TJ
・排出係数=18.7 t-C/TJ
・温暖化係数=1
これを全てかけあわせて、さらに44/12をかける。計算すると1年間に自動車燃料として使われたガソリンから排出されたCO2の量は約9,950万トンとなる。軽油についても同様に計算して足し合わせると、自動車から排出されるCO2は年間1億6,200万トンになる。
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