記事のポイント
- 気候変動をわかりやすく教えるアニメ動画教材が全国の学校授業で広がっている
- 1話約5分の短さと、「未来は変えられる」という前向きなメッセージが好評だ
- 科学に沿ったこの無料の教材は、大人の学び直しとしても広がりそうだ
地球温暖化の現実をわかりやすく編集したアニメ動画教材「FUTURE KID TAKARA(フューチャーキッド タカラ)」を、学校の授業で活用する動きが全国で広がっている。1話5~6分の全11話を通して、温暖化の原因や、異常気象、森林、生物多様性、プラ問題など、科学に沿った正しい情報を得られる。「今なら未来は変えられる」という前向きなメッセージは、観た人にとって、環境問題を自分事化するきっかけになると好評で、大人の学び直しとしても広がりそうだ。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

オリジナルストーリー「FUTURE KID TAKARA」
© Beyond C. / Future Kid Takara製作委員会
動画教材を製作したのは、NHKエンタープライズ(東京・渋谷区)と世界的なアニメスタジオのSTUDIO4℃。「授業づくりアイデアシート」や、「ワークシート」もセットで用意し、学校教育にも使いやすいようにした。制作過程では東京大学未来ビジョン研究センターの江守正多教授の科学監修と、公益社団法人日本環境教育フォーラム(東京・荒川区)の教育監修も受けた。
ショートアニメ「FUTURE KID TAKARA」は、2100年からタイムワープした未来の子どもタカラが、現代を生きる少女サラとその仲間たちとともに、温暖化の影響に直面する地球を探検する物語だ。
各話5~6分で全11話あり、1話ずつ、温暖化の原因、これからさらに増える異常気象、気候変動がもたらす食料危機、生物多様性の喪失、太陽光・風力・地熱などの自然エネルギー、森林破壊と植樹、サーキュラーエコノミーなどのテーマで掘り下げる。
「温暖化でスポーツができない?」と題する第6話には、元日本代表サッカー選手の小野伸二さん、中村憲剛さん、内田篤人さんが出演し、熱中症対策やCO2を減らす気候アクションの大切さを伝える。

© Beyond C. / Future Kid Takara製作委員会
本動画は、営利目的での使用はできないが、非営利目的での使用なら申請も要らず、無料で見られる。学校に通っていなくても、YouTubeから視聴できる。
■観た人は温暖化問題が「自分事」に
実際に授業で活用した千代田区立富士見小学校(東京・千代田)の徳武舞主任教諭は、「子どもたちの意識が目に見えて変わった」と振り返る。
「電気がつけっぱなしなのに気づくと、子どもたち同士で『電気を消さなきゃ』と声をかけ合ったり、給食の時も、『食べられないなら最初から減らしたら』と子どもたちから食品ロスを減らそうとの声が上がるようになった」という。
また宿泊学習の際は、持ち物の一つの「初日のお弁当」について、学校側が衛生上、使い捨ての容器に入れるよう指定すると、ある児童から、「食べ終わった後に洗えば、使い捨ての容器でなくても良いですよね。授業を受けてからとても気にしているので、そういう工夫をしても良いですか」と確認があったという。
徳武教諭はオルタナの取材に対し、「子どもたちが自分で考えて行動に移せるようになった。子どもたちだけでなく家庭でも考えるきっかけになっているんだと思う」と答えた。
このアニメの魅力を徳武教諭は、「実際に地球は本当に壊れてしまうんじゃないかと考えると『怖い』と思う感情も出てくるが、アニメの『今なら未来は変えられる』というメッセージで、自分たちが変えていかなければいけないんだ、と自分事になる。子どもたちと同世代の子が主人公であることも自分事になるきっかけとして大きい」と話した。

■学校授業に導入しやすい作りに
同校では2025年10月、徳武教諭が担任を持つ5年生の「総合的な学習」の授業で計5時間、地球温暖化について学んだ。
徳武教諭は、「昨年度、4年生で取り扱ったSDGsでの環境問題と近い内容だったので是非授業をやりたいと思った。アニメを観て、これは子どもたちの学習意欲がわくと確信した」と振り返る。
授業では、前年のSDGsの授業で学んだことを復習する「導入」にアニメを使い、そこから、自分たちでできることは何なのか、児童たちに考えさせる形で展開した。「環境問題は知識を得て終わりにするのではなく、自分事にしないと行動に移せない」との考えからだ。
徳武教諭は授業を準備する過程で、「動画教材はどこを使っても良いというのは使いやすかったし、ワークシートも自由に変えて良いと言われているのはありがたかった」と振り返る。
「総合的な学習」の授業では、一部の動画しか使わなかったが、「子どもたちが全話、最後まで見たがったので、朝学習の時間を使って全部見た。主題歌も皆、口ずさんでいた」という。
主題歌「地球のなみだ」は歌人の俵万智さんが作詞し、NHKの「みんなのうた」でも2025年10月に放映された。
第6話「温暖化でスポーツができない?」を皆で見たときには、熱中症アラートが出ている中、屋外での活動に制限がかかる様子に、「本当にそう」「習い事もできなかった」との声が漏れていたという。
また授業実施から数カ月経った後も、社会や理科などの授業で関連するテーマを学ぶときに、「タカラで見たよね」と思い出す声も聞かれたという。
■現役プロサッカー選手と気候変動を学ぶ授業も
公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)は、2025年10月以来、この第6話を中心に、現役選手や選手OBが先生役となって、全国のJクラブホームタウンの小学校に出張授業の形で環境教育授業を実施してきた。
2026年2月26日時点で、北は福島から南は宮崎まで27クラブで計32回授業を実施した。
2月24日には稲城市立若葉台小学校(東京・稲城市)で、119人の小学6年生が「総合的な学習」の時間を使って、「FUTURE KID TAKARA」を活用したJリーグ環境教育授業を受けた。
先生役を務めたのは、東京ヴェルディ(クラブ所在地:東京・稲城市)で活躍中の深澤大輝選手と稲見哲行選手だ。Jリーグ気候アクションアンバサダーも務める2人は、授業の冒頭、「一緒に気候アクションに取り組む仲間を増やしにきました」と子どもたちに向かって力を込めた。

東京ヴェルディの深澤大輝選手(右)と稲見哲行選手(左)
45分間の出張授業では、「FUTURE KID TAKARA」の予告編と第6話を視聴した後、選手から、温暖化でJリーグでも影響を受けていることや、熱中症リスクを判断する「暑さ指数」について共有した。
そして地球温暖化を食い止めるために、子どもたちがグループに分かれて「どんな気候アクションがあるか」、「気候アクションに取り組む仲間を増やすにはどうしたらよいか」を考え、「ワークシート」にその内容をまとめた。
■気候アクションはまず「伝える」ことから
子どもたちからは、節電・節水、3R、フードロス削減、マイボトル・マイバッグの持参、植林や、できるだけ車を使わないといった気候アクションが共有された。また、仲間を増やすためのアイデアについては、「伝えることが大事」だということを選手とともに確認した。
また東京ヴェルディの実施している気候アクションとして、ホームゲームで不要衣料品を回収し、新たなサポーターグッズなどへと生まれ変わらせるプロジェクトも紹介した。この取り組みでは、1試合で100kg超の衣類を回収するという。
深澤・稲見両選手は、温暖化による「異常な暑さ」を体感しているとして、試合や練習が終わったあとも身体がほてっている時間が長く、アイスバスに浸かっても長時間熱さが抜けないことや、天然芝での練習中に足の裏がやけどして水ぶくれになった経験を取材陣に話した。
二人は「サッカー選手だからこそ届けられる言葉がある」と語り、自分たちでできる気候アクションを少しでも探していきたいと意気込んだ。

気候アクション策やそれを広める施策を考えた
■言葉や世代の壁を越えるアニメの力
「FUTURE KID TAKARA」に特別協賛した公益財団法人イオン環境財団(千葉市)の天野雄二・戦略・広報マネージャーは、「日本のアニメには、言葉や世代、国境の壁を超えて伝わる力がある。これはすごい力だ」と力を込める。
「子どもに向けたアプローチをとってはいるが、どの世代が見ても共感・感動できる中身となっている。大人も子どもも分け隔てなく環境問題を自分事としてとらえることができる」(天野マネージャー)
イオン環境財団は、地球環境をテーマに、1990年に日本で初めて企業単独の財団法人として発足した。「植樹」「助成」「環境教育・共同研究」「顕彰」を事業の4本柱とする。
アニメの第8話「森を増やそう!」では、イオン環境財団と北海道興部町(おこっぺちょう)が同町で実施したトドマツの植樹の様子も映る。植樹には、地元・興部町の人のほか、イオン北海道の従業員や関係者とその家族らも参加した。
イオン環境財団では、小中学生向け組織・イオンチアーズクラブや未来屋書店など、イオングループ傘下のネットワークやタッチポイントを使って、「FUTURE KID TAKARA」を活用した環境教育を検討している。
植樹等でイオン環境財団と過去に関係を持った自治体の中には、この動画教材を教育委員会に紹介・展開したいと関心を示したところも多いという。
■「映画ではなく動画教材に」と製作側の思い
製作のきっかけは2021年にさかのぼる。その年の1月、気候変動など、2100年からの警告をテーマにしたNHKスペシャル「2030 未来への分岐点」が放映されると、番組を見たSTUDIO4℃の田中栄子社長が、同番組の制作に携わったNHKエンタープライズの堅達(げんだつ)京子エグゼクティブ・プロデューサーに「アニメで温暖化をテーマにした作品を作ろう」と持ち掛けた。
当初はアニメ映画の構想もあったという。しかし、「映画となると、資金も莫大に必要だし、はちゃめちゃな冒険活劇のようなストーリーにしないと集客できない現実がある。そうなると、科学的な根拠をもとに伝えていくことや、アニメを観た人の行動変容につなげたいという目的とはトレードオフになる懸念があった」と堅達氏は話す。
そこで、映画ではなく、リアルな地球の映像も交えた学習教材に特化した無料のショートアニメ・シリーズにした。一人でも多くの子どもたちに届けられるよう、無料でYouTube配信するスキームを、NHKエンタープライズを幹事社とする製作委員会で構築し、協賛を募った。
無料配信は、公益財団法人イオン環境財団の特別協賛、公益社団法人日本プロサッカーリーグの協賛が決まったことで、実現できたという。
「FUTURE KID TAKARA」は、子どもだけでなく大人も地球環境問題を正しく理解できる作品だ。授業での活用も、今後、「点」から「面」へと、さらに広がりを見せそうだ。



