日本製鉄、USスチール石炭高炉への延命投資に批判の声高まる

記事のポイント


  1. 日本製鉄は今月5日、USスチールの石炭高炉に対する具体的な投資計画を公表した
  2. 石炭高炉は地域住民の健康に悪影響を及ぼすとの報告もあり、住民からの反発も大きい
  3. それでも石炭高炉の延命を目指す日本製鉄に、批判の声が高まっている

日本製鉄は今月、USスチール買収後、米国で石炭高炉を延命に向けたより具体的な投資内容を明らかにした。石炭高炉による大気汚染は地域住民の健康に悪影響を及ぼしており、地域住民からの反発も大きい。それでも石炭高炉の延命を目指す日本製鉄には、米メディアをはじめ批判の声が高まっている。(スティールウォッチ・石井三紀子)

日本製鉄
日鉄の石炭高炉の延命投資に批判の声が上がっている

2025年6月のUSスチール買収以降、日本製鉄は米国における石炭高炉の延命に向けた大規模投資を発表してきた。これにより、現地で長年問題視されてきた製鉄所による深刻な健康・環境被害を、今後も引き延ばすことになる。

これらの石炭高炉は、米国において既に数百件もの早期死亡や、数十万件の喘息症状に関与していると推定されている。

米環境団体マイティ・アースの最新報告書はさらに、日本製鉄が米国で石炭高炉を稼働し続けることの責任の重さを、改めて浮き彫りにした。同団体はトヨタやホンダなど鉄鋼メーカーの顧客に対しても、石炭高炉で生産された鋼材を購入し続ける限り、こうした深刻な健康被害への責任を免れないと警告する。

石炭を使った鉄鋼生産が製鉄所周辺の地域社会にもたらす甚大な被害を踏まえ、鉄鋼メーカーおよび自動車メーカーは、従来通りの生産方法が本当に許容可能な選択肢なのか、今一度再考することが求められている。

石炭高炉による鉄鋼生産の高い代償

日本製鉄の最新決算報告(2025年度第3四半期)では、USスチールの石炭高炉への投資計画がより具体化され、ゲーリー製鉄所第14高炉のリライニング改修について、3億5000万米ドル(約550億円)を投じ、今年5月から8月の約100日間で実施することが発表された。これにより時代遅れの高炉がもたらす地域への被害はさらに長期化することとなる。

マイティ・アースの報告書によると、USスチールの3つの製鉄所は、推計で154件の早期死亡に関連するとされている(詳細は図1参照)。

図1: USスチールの3つの製鉄所における年間症例数の推計(マイティ・アースの報告書をもとにスティールウォッチ作成)

■米CBS「日本製鉄、地域からの反発にかかわらず石炭利用を継続」と報道

ゲーリー製鉄所の高炉改修決定を受け、米CBSは先月、「これまで現地で行われてきた製鉄方法に引き続きコミットメントを意味する。つまり石炭利用だ」と批判を込めて報じた。

地域社会は旧式の設備に強い不満を示し、企業が将来のゼロエミッション経済に向けた脱炭素技術へ移行することを望んでいる。

マイティ・アースの報告書にはゲーリー製鉄所近くの住民による「家から外へ⼀歩出るたびに、硫⻩の腐った卵のような臭いが強く鼻をつき、濃度が⾮常に⾼いことがはっきりとわかる」という、大気汚染の現実を伝える生々しい声も掲載されている。悪臭は家の中まで入ってくることもあり、外では⾞に煤(すす)が降り積もるという。

同報告書で、地元団体のメンバーは「製鉄の次の段階へ進むのが筋だと我々は考えている。それは⾼炉を使わずに鉄を作ることだ。⾼炉こそが諸悪の根源なのだから」と述べている。

米国における日本の自動車メーカーの影響と責任

米国において、自動車メーカーは一次鋼(鉄鉱石由来の鋼材)消費量の60%を占める。つまり自動車業界は、鉄鋼業界に対し低排出技術への転換を促す大きな影響力を持っている。

米国の自動車市場では、上位6社が全体の約73%を占めており、そのうち2社(トヨタ2位、ホンダ5位)は日本企業である(図2参照)。

マイティ・アースの報告書は、これらすべての自動車メーカーがUSスチールやクリーブランド・クリフスから鋼材を調達しており、米国の鉄鋼バリューチェーンと深く関わっていることを明らかにした。

図2: 自動車ブランド別米国市場シェア(マイティ・アースの報告書をもとにスティールウォッチ作成)

■日鉄が掲げる「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」に求められる姿とは

低排出鋼材の製造技術が急速に成熟する中、依然として石炭に依存する鉄鋼メーカーへの圧力は高まっている。

鉄鋼メーカーおよび自動車メーカーは、より適切な選択を行い、地域社会を守る責任があり、そのための機会も整いつつある。

世界の鉄鋼メーカーは自動車向け低排出鋼材の生産を拡大している。例えば米ゼネラル・モーターズはアルセロール・ミッタル北米から電炉で生産された低排出鋼材を購入する予定だ。

人々と環境の健康を損なう旧来の製法に固執するのか、より持続可能な未来へと転換するのか。いま、日本製鉄をはじめとした日本企業の決断が問われている。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。