仕事の報酬 五つの意味(田坂広志)

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■雑誌オルタナ84号:オルタナティブの風(38)

読者は、仕事には「五つの報酬」があることを、ご存じだろうか。

第一は「給料や年収」、第二は「役職や地位」。この二つは、誰もが認める「目に見える報酬」であるが、これに加えて、実は、仕事には、「目に見えない報酬」が三つある。

その第一は「仕事の働き甲斐」。実際、世の中に「給料は安いが、働き甲斐のある仕事」を選ぶ人がいる。

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第二は「職業人としての能力」。昔から「腕に蓄えをせよ」との言葉があるが、これは、給料が安くとも、腕を磨くことができれば、それが隠れた財産になることを教える格言である。

そして第三は「人間としての成長」。「仕事を通じて己を磨く」という言葉があるが、実際、仕事に懸命に取り組んでいると、職業人としてだけでなく、一人の人間として成長できたと感じられる瞬間がある。その喜びもまた、素晴らしい報酬に他ならない。

このように、仕事には「目に見える報酬」と「目に見えない報酬」があるが、同時に、仕事には「自ら求めて得るべき報酬」と「結果として与えられる報酬」がある。そして、実は「働き甲斐」「職業的能力」「人間的成長」は前者の報酬であり、「給料や年収」「役職や地位」は後者の報酬である。

実際、一流のプロフェッショナルは、仕事において、何よりも顧客に喜んでもらうこと(働き甲斐)を大切にし、そのために腕を磨くこと(職業的能力)や、人間を磨くこと(人間的成長)を追求してきた。そして、その自然な結果として、仕事での優れた評価が与えられ、高い経済的報酬や社会的地位が与えられてきたのである。

逆に、顧客中心の心を持たず、腕や人間を磨くことをせず、ただ「年収を上げたい」「昇進したい」と考える人材は、その安直な姿勢がゆえに、必ずと言って良いほど、壁に突き当たる。

そして、我々が上司や経営者ならば、必ず自らに問うべきことがある。

それは、「自分は、日々の仕事の中で、部下や社員に、この『目に見えない報酬』を、どれほど贈っているだろうか?」との問いであり、部下や社員は、「仕事に働き甲斐を感じているだろうか?」「腕を磨けているだろうか?」「人間として成長できているだろうか?」との問いである。

しかし、この問いを問うとき、さらに深い、三つの問いが浮かんでくる。

「自分は、部下や社員に、仕事の志を本気で語り、働き甲斐を感じられるようにしているだろうか?」「自分は、部下や社員が腕を磨き、能力を高めたとき、心を込めて褒めているだろうか?」「自分は、部下や社員に、人間としての成長が喜びであることを、後姿と横顔で伝えているだろうか?」

そして、この問いこそが、我々を成長させてくれる問いに他ならない。

21世紀アカデメイア学長、多摩大学大学院名誉教授、田坂塾塾長。81年、東京大学大学院修了。工学博士。87年、米国パテル記念研究所研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。取締役を務める。00年、多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立。08年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Agenda Councilメンバーに就任。11年東日本大震災に伴い内閣官房参与を務める。全国から1万名を超える経営者やリーダーが集まり「7つの知性」を学ぶ場、「田坂塾」を開塾。著書は国内外で150冊余。

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キーワード: #オルタナ84号

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