若者の心つかめぬ企業に未来はない:原田曜平氏(下)

「ミレニアル世代」(1980年~1995年生まれの世代)の消費動向が世界や日本の企業の関心を集めている。世界共通の特徴として特に「物欲がない」ことが取りざたされるが、若者研究の第一人者である原田曜平氏は、「物欲がないわけではなく、企業が本気で若者向けにマーケティングをしていないだけ」と手厳しい。「若者をつかめない企業に未来はない」とまで言い切る真意は何か。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂、オルタナS編集長=池田 真隆、写真=高橋 慎一)■この記事は雑誌「オルタナ」50号(9月末発行)から転載。

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――今の若者たちはシェアリングエコノミーにも興味があると言われていますが、この動きをどう見ていますか。

原田:シェアリングエコノミーに関しては懐疑的に見ています。大人が若者を理想視し過ぎていると思います。ミレニアル世代という言葉の普及の背景には、大人たちが理想視したことがあるのではないでしょうか。

なぜなら、ミレニアル世代は、ただ貧乏になっているだけという説もあります。車は欲しいけれど、高くて買えない。その結果、カーシェアリングが流行りました。つまりお金がないだけなのです。

あまり過剰に、シェアする行動を美化するのは良くないです。もちろんミレニアル世代は新しい可能性を秘めていると思いますが、若者たちが意図してそれを選択してはいません。大人が一方的に美談にしている傾向が強いということを認識してほしいです。

――米国のミレニアル世代の特徴として、社会問題への意識が高いと言われていますが、この見方については、どうお考えでしょうか。

原田:私は必ずしもミレニアル世代が社会問題への意識が高いとは思っていません。社会問題に関心が高い都市部に住む高学歴の若者はいますが、全体としては少ないと思っています。

日本は過剰にそうした見方を信じていますが、実際に米国の若者にインタビュー調査を行うと、本当はNGO/NPOよりグーグルやアップルに就職したかったという声をよく聞きます。

もちろん、一部にはNPOで働きたいと思っている人もいますが、多くの若者は経済的にそれどころではないのが現状です。

――日本では、東日本大震災を契機に、社会問題への意識を持つ若者が少しずつ増えたのではないでしょうか。

原田:少しずつ増えているのは事実だと思います。ですが、東日本大震災で若者の価値観が変わったというのは、大人が思い込みたい理想で、残念ながらぼくはそう思わないです。ただ、これは世界全体の若者に言えることですが、「優しい子たち」が増えてきたとは思います。

経済的に余裕はないのですが、いろいろな人たちの声をSNSで読むことができるので、自分だけ豊かになれば良いと考えたり、人を蹴落としてでも出世したいと考えたりする若者は少なくなってきています。

それ自体は悪いことではないですが、視野が狭くなってきていると感じます。米国のマンハッタンの富裕層の若者にインタビューをすると、少し前までは高級レストランでパーティーをしたという話を聞いていましたが、リーマンショック後は、人があまりいない場所で喫茶店を見つけたなど、日本の若者のように、身近な範囲で喜びを感じるようになっています。
スティーブ・ジョブスのように大儲けてしてやろうみたいなタイプは明らかに減っています。

悪く言えば、近視眼で粒が小さいと言えますが、現実的で地に足が着いているとも言えます。先ほどの社会問題への意識についても同じですが、過剰に今の時点でのミレニアル世代を評価することは良くないですが、ポテンシャルはすごく高いとは思います。

しかし、そのようなエシカルなマインドを持った層はマジョリティーにはならないでしょう。経済的にゆとりのある人ではないと社会貢献は続けられないからです。日々の生活で手いっぱいという人がこれからどんどん増えていくでしょう。

■変化の兆し2025年に

――近年、働き方改革が叫ばれていますが、今後の組織の在り方はワークライフバランスを重視した形に変わっていきそうですね。

原田:もうすでに変わっていると思います。40数年連続で少子化が進んだことで(出生数が減少に転じたのは1974年)、まだ有名企業は良いですが、多くの中小企業は採用が困難になっています。

かつては人口が少ない地域の若者が金の卵でしたが、今は全体の数が少ないので、自分の努力にかかわらず金の卵になっています。特に今はバブル期並みに、新卒の就職状況が良い中で、今の子たちは「ダメになった」とも思います。

――ダメになるとはどういうことでしょうか。

原田:仕事をさぼったり、いきがったりするようになったという意味ではありません。
ある程度、若いうちは厳しい状況を経験したほうが良いと思っていますが、今は競争もなく、楽に会社に入れます。

新卒の3割が3年で辞める割合に関しては、バブル期から変わっていないのですが、動機が異なります。バブルの頃は、「もっと良い会社はないか」というポジティブな理由で辞めていましたが、今の若者たちは「会社と合わないから」などの後ろ向きな理由で辞めていきます。

特にこの数年は、安易なきっかけで辞めている人が多いです。それでも、転職できてしまう。そういう意味で、若者に危機感がなくなり、失業率が40%を超えるヨーロッパの若者などには見られない傾向があります。

さらに、これは国民性の影響だと思いますが、SNSでより身内とつながったことで、「ムラ社会化」現象が起きています。そもそもSNSは、国や世代を越えて、いろいろな人とつながれるツールです。

しかし、日本の若者は知らない人とはつながりを持ちたがらず、知っている人だけで交流するようになっています。その結果、つながっていない人には関心を持たなくなります。例えば、高校の友達がバンドをやっていたらそのライブチケットは買いますが、誰か知らない人が困っていても、その人のためにわざわざ何かを買ってあげることはしなくなるでしょう。

―― 一方で、社会問題の解決を志す社会起業家もミレニアル世代から生まれています。

原田:社会起業家がアイコンとして、メディアに出ることは10年前にはなかったことです。2025年には、団塊世代が引退し、団塊ジュニアに世代交代します。団塊ジュニア世代に象徴的な社会起業家が多いので、だいぶ社会が変わると思います。変化は2025年に起きると予測しています。

原田曜平:
1977年、東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。専門は日本及び中国、アジアの若者研究とマーケティング。著書に『ヤンキー経済』『さとり世代』ほか。日本テレビ「ZIP!」、TBS「情報7days」レギュラー。

■この記事は雑誌「オルタナ」50号(9月末発行)から転載。50号では「ミレニアル世代の消費傾向」を分析しました。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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