若者の心つかめぬ企業に未来はない:原田曜平氏

「ミレニアル世代」(1980年~1995年生まれの世代)の消費動向が世界や日本の企業の関心を集めている。世界共通の特徴として特に「物欲がない」ことが取りざたされるが、若者研究の第一人者である原田曜平氏は、「物欲がないわけではなく、企業が本気で若者向けにマーケティングをしていないだけ」と手厳しい。「若者をつかめない企業に未来はない」とまで言い切る真意は何か。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂、オルタナS編集長=池田 真隆、写真=高橋 慎一)■この記事は雑誌「オルタナ」50号(9月末発行)から転載。50号では「ミレニアル世代の消費傾向」を分析しました。

博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田氏

――「クルマ離れ」が象徴するように日本も海外も若者たちに物欲がなくなったと言われます。

原田:若者の消費離れについて考えるとき、まず、本気で若者向けのマーケティングをしている企業がまだあまりないという現状を認識すべきだと思います。

どんなに志のある担当者がいても、少子化が起きている国では若者だけを狙うことはリスクで、「団塊ジュニア」(1971年―74年生まれの40歳代前半の世代)を狙えと上司に言われてしまいます。

サステナビリティを考えると、若者をつかまない企業に未来はないです。けれど、自分の保身しか考えていない経営者は単年度決算さえよくなれば良いと考えてしまい、若者に踏み込もうとしません。

若者の車離れと言われて久しいですが、本気で若者だけを狙った車はほとんどないんじゃないでしょうか。車は1台つくるのに数百億円を投資するので、人口が少なく、収入が低い若者だけを狙うことはできないと経営層が判断し、結局は「中高年を狙おう」となってしまいます。

かつては、車に求めるものとしてスピードが重要視されていたので、エンジンが大切でした。ですが、今の若者にとっては、エンジン性能よりも友達と楽しく話せる広い車内空間が重要です。一言でいうと、ミニバンが重宝されるのです。

この感覚を自動車メーカーがつかんでいるかといったら、まだつかんでいる企業は少ないように感じます。極端に言うと、エンジン性能は、いくら落としても問題ないのです。しかし、その分、空間を広くする必要があります。しかし、そのような発想から生まれた車は一台もありません。「若者たちは、いまだにミニバンよりもスポーツカーをかっこいいと思っている」と考えがちです。

そもそもミニバンは日本では90年代に普及したのですが、ミレニアル世代はその年に生まれています。つまり、この世代はミニバンの高い機能性を感じなら育ってきた、「ミニバンジュニア」なのです。

父親がミニバンを持っていたら、近所の友達と大量の荷物を乗せて送り届けました。友だちから、「お前のところの車、大きくていいな」と言われて、誇らしげに感じて育ってきた世代です。

それが、子ども時代にミニバンがなかった世代からすると、ミニバンはダサいと思い込んでしまう。しっかり若者を研究していれば、若者たちはミニバンをクールだと感じていると気付くはずです。

ビールメーカーも同じ状況にあります。あるとき、うちの研究所の若者がビールは嫌いだけど、オクトーバーフェスト(ドイツ発祥のビールの祭典)で世界のビールを飲み比べした写真をSNSに載せました。「本人は、おいしくないけれど、ビールのパッケージのデザインが良かったから写真を載せた」と言っていました。

後日、ビールメーカーの担当者に伝えたら、「いや、原田さん、それはあり得ない。嘘をつかれている」と言われました。その担当者は、「オクトーバーフェストという開放的な空間で飲んだから、いつもよりおいしく感じた、だから写真をSNSに投稿した」と信じたいからそう言ったのでしょう。

しかし、本人がおいしくないと言っているのだから、本当においしくはないのです。味よりも、インスタグラムに映えるという価値のほうが、その若者にとって大事だったというだけです。

この感覚は過去にはなかったものです。ですから、そのことを理解している企業は少なく、いつまでも味にこだわり、インスタグラムに載せたくなるようなパッケージにこだわったビールはなかなか出てきません。

モノが売れなくなったとはいえ、やりようはあります。例えば、「クルマは買わなくなった」と言われていますが、フェスには行っています。オクトーバーフェストやカラーラン(カラーパウダーを浴びながら走るイベント)など、ここ数年でコト消費はかなり増えています。

どの業界にも栄枯盛衰があるように、今の若者の動きに合わせてシフトしなければなりません。

失業率が40%を超えているヨーロッパの若者に流行っていることを聞くと、「流行りって何ですか?」と返ってきます。最近何を買ったのか聞くと、「半年前に大学でジュースを1本買った」と答えた子もいました。

それに比べると、日本の若者は実は裕福なのです。東京の大学生だと月に10万円弱、アルバイトで稼げます。実家住まいのパラサイト率も高い。毎月10万円弱も毎月使えるのはおそらく日本の学生だけでしょう。

つまり、日本の若者はお金を使わなくなったと言われていますが、世界的にみると異常にお金を使っています。奨学金をもらっている学生の割合が5割を超えて、返済はすごく大変なことでしょうが、米国の奨学金と比べると金額は少ないはずです。

そういう意味で考えると、本来は日本の若者をしっかり狙わないといけないのに、過去の成功体験にすがりついている企業が多く、若者向けのマーケティングが進んでいません。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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