山形の畜産業者がバイオガスと風力に力を入れる理由

山形県庄内町に、食肉加工販売を営みながら、バイオガスと風力発電に取り組む企業がある。一見関係性の見えない組み合わせだが、地域の「再エネの推進役」として、自社だけでなく、他社とも連携を進める。食とエネルギーは生きる上で欠かせない。地域密着の企業だからこそできる、地域活性化の戦略とは。(オルタナ副編集長=山口勉)

大商金山牧場が運用する4基の風力発電設備

大商金山牧場(山形県庄内町、小野木重弥社長)は、昭和54年設立の養豚を柱とする総合食肉業の会社だ。小野木社長は2代目で、事業を引き継いで10年になる。

同社は食肉の生産加工から販売まで行う6次産業事業に加え、養豚で出る排泄物を利用したバイオガス発電や、庄内特有の風を活用した風力発電事業にも取り組む。

■始めは危機感から

――バイオガス発電に取り組んだ経緯を教えてください。

いま山形県では、年1%の割合で人口が減っています。このままでは企業が存続できないという危機感がありました。

7、8年前にドイツやオランダの畜産業を視察に行ったのですが、そこでは養豚業と合わせて、発電が第2の事業として成り立っているのを目の当たりにしました。家畜の排泄物をメタン発酵させてバイオガスにし、発電・売電するのです。

「これだ」、と思いました。平成30年6月に導入しましたが、日本で実現するのは困難を極めました。まずバイオガス発電設備を製造しているメーカーが国内にはありませんでした。海外から輸入するとコストが高すぎました。

――それでも諦めなかったのですか。

日本の食を守るためです。現在国内の食料自給率は37%まで下がっています。このままでは、日本の食は独立性を保てません。自給率を少しでも上げていかないと、持続可能な生活が保てなくなくなります。

地元にも面白い企業があると思ってもらえれば、人材も集まります。現在の発電量は最大500kw/hで、ヤマガタ新電力へ売電しています。

排泄物を発酵させた後に残る液体も肥料にします。発酵させた後の方が質も上がります。

■地元の特徴を活かす

――食肉事業と風力発電はどうつながるのでしょうか。

2021年11月には、風力発電施設の運用も開始しました。7年越しで実現しました。 

庄内はもともと風のまちで、地元で「清川だし」と呼ぶ東南東の強風が吹きます。農作物にも被害を与え、日本三大悪風の一つと呼ばれていました。

それを逆手にとってまちおこしで始めたのが風力発電です。1993年には大型風車を建設するなど、自治体では早くから取り組んでいました。

庄内町が2015年に策定した農山漁村再生可能エネルギー法による基本計画に基づいた公募があり、うちでもできないかと手を挙げました。 

バイオ発電も柱になってきて、再生可能エネルギーも注目されるようになりました。SW0T分析などで、自社の強みなどをリサーチし、地元の特徴を活かした風力発電で、地域活性化につながると考えました。

これは地元資本でやらないと、という思いがありました。発電事業は、本来なら資本力がなければできません。でも、外部の企業が庄内から離れた土地の発電を行うとしたら、地元の収益になりません。

合計12基あり、4基ずつ3社で保有しています。全て地元の企業です。地元で利益を生み、企業としても税金で還元したかったのです。

■自社も再エネ100%、さらに売電も

――規模はどれくらいですか。

12基合計で約60ギガワット時、約1万7千戸分の年間消費電力相当で、全てヤマガタ新電力へ売電しています。県内に自社の事業所が5ヶ所ありますが、全てこの風力発電でまかなっています。

――近年、企業の存在意義を説明する「パーパス」が注目されています。御社のパーパスについて教えてください。

「エネルギーも食も、次世代のために自給率100%を目指す」ということです。

食料安全保障、エネルギー安全保障100%を目指すというのは、社会を持続可能にする上で同義だと考えています。

「儲ければいい」ではだめです。ローカルで存続していくためには、地域と共生していくと決め、地域の特徴も活かして一気通貫で取り組む必要があります。

食に関わることは、生きていくことと同じです。昭和40年の食料自給率は73%ありました。現在では、安い海外製の食品が入り、37%まで下がってしまいました。

いま人口が減り、GDPも停滞し、円の価値も下がってきています。食料価格が上がれば、お金を出せば買えるという時代ではなくなります。誰かが食料を作っていかないと、将来世代を守れなくなるのです。私だけでなく、農畜産業に関わる人たちは皆、こうした志を持って取り組んで欲しいと思います。

食もエネルギーも地産地消でまかない、価格も安く提供する。リモートワークも当たり前になれば、住むところも限定されなくなる。人が集まれば、地域は活性化します。山形はそれができる土地だと信じています。庄内を楽園にするのが私の夢です。

――こうしたサステナビリティの取り組みは、事業にどのような影響を与えていますか。

サステナビリティへの取り組みを話題にするバイヤーが増えました。プライム市場もESGへの取り組みは避けて通れません。特にスーパーや、大手の食肉卸業者は興味を持っています。

自社で生産しているブランド豚は、地元のお米を配合した地産地消の飼料を使っています。再エネ100%の施設で育てているなど、今後はSDGsをより意識したマーケティングも考えています。

yama234yama

山口 勉(オルタナ副編集長)

大手IT企業や制作会社で販促・ウェブマーケティングに携わった後独立。オルタナライターを経て2021年10月から現職。2008年から3年間自転車活用を推進するNPO法人グリーンペダル(現在は解散)で事務局長/理事を務める。米国留学中に写真を学びフォトグラファーとしても活動する。 執筆記事一覧

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..