「将来の成長機会」はESGではなく「ESD」で測ろう

記事のポイント


  1. 「社会課題を成長機会へ転換」という理念の実践には「壁」がある
  2. この壁を乗り越えるための新たな思考の枠組みとなるのが「ESD」だ
  3. 「将来の成長機会」などを予測するための新たな評価軸として注目が集まる

サステナ経営の重要性はすでに広く認識され、「社会課題を成長機会に転換」という理念も浸透しつつありますが、実践するには「壁」があります。そこで注目されるのが、エマージング(新興)、ストラテジック(戦略的)、ディスラプティブ(破壊的)の頭文字を合わせた「ESD」という考え方です。ESGの評価軸では測ることが難しいとされる「将来の成長機会」などを予測するための新たな評価軸です。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤直見)

社会課題を起点に、ビジネスモデルの変革やイノベーションの創出を目指す企業は増えてきましたが、実際に結びつけられている企業は限られます。その背景には複数の要因がありますが、その一つとして、技術革新の加速や地政学リスクの顕在化など、従来のESGの枠組みだけでは捉え切れない社会課題の存在があります。

これらを機会として戦略に統合し、実行に移す経営判断は容易ではありません。そこで注目される新たな思考の枠組みが「ESD」です。

ESGでは「将来の成長機会」を測れない

ESGは、環境・社会・ガバナンスの3軸で社会課題を分類し、それぞれの領域で企業がどの程度取り組んでいるか、どんな能力を持っているかを測る評価軸です。

ESGは企業の非財務情報のうち、財務的影響に結びつき得るリスクと機会を可視化し、透明性や説明責任の確保に成果を挙げてきました。しかし、対象となる課題は既に制度や規範に組み込まれ、測定可能な領域に限られています。

そのため、将来の成長機会や制度化されていない新たな社会課題を捉えるためには不十分との指摘があります。

米調査会社がESDを提案、ESGを補完へ

2025年6月23日付の英フィナンシャル・タイムズのニュースレター「モラル・マネー」において、米調査会社のバーンスタイン社は、ESGを補完する新たな評価軸として「ESD」を提案しました。

ESDとは、エマージング(新興)、ストラテジック(戦略的)、ディスラプティブ(破壊的)の頭文字を合わせた造語で、企業の未来への成長力や不確実な変化への対応力を測る「動的な評価軸」です。

バーンスタイン社は、投資家に向けて次のように主張しています。

・環境や社会問題を、技術変化や地政学リスクなどの長期的なリスクから切り離して考えることは適切ではない。
・従来のESGの枠組みだけでは、活動の影響力が十分に発揮されない。
・企業が未来の変化に対応する準備ができているかを、より幅広い視点から評価すべきである。

ESDは投資家だけでなく、企業経営にとっても重要な示唆を含んでいます。なお、バーンスタイン社はESDの明確な分類や定義を提示していないため、同社に関する報道内容を踏まえ、筆者が整理した枠組みをご紹介します。

ESDは3軸で社会課題を分類する枠組み
ESDは投資家と共有可能な評価軸でもある
「ナラティブ」が投資家との対話でより重要に

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遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #サステナビリティ

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