記事のポイント
- ブラジル政府が承認した新たな「サステナブルタクソノミー」が画期的だ
- タクソノミーとは、サステナブルな経済活動を定義する「分類」を意味する
- ブラジルのタクソノミーは、環境だけでなく不平等の是正など社会視点も盛り込む
ブラジル政府は2025年9月に新しく「サステナブルタクソノミー」を承認した。「タクソノミー」は、経済活動が持続可能かどうかをみなす技術的・法的基準を定義する「分類」で、金融機関はサステナブルファイナンスの基準に活用する。2026年1月から義務化となるブラジルのタクソノミーは、環境影響に加えて、不平等の是正などの社会目標も盛り込んだ点が画期的だ。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

タクソノミーが持続可能な経済活動を定義することで、企業や金融機関は、報告、与信の判断、金融商品の設計などでタクソノミーを一つの基準として活用できる。先行するEUタクソノミーに加え、シンガポールや香港などもタクソノミーを制度化している。
ブラジル政府が承認した新たな「サステナブルタクソノミー」は、2026年1月以降、義務化へと移行する。中小企業からの要望も考慮し、段階的にスコープを拡大していく。
現在は、フレームワークの英語版の作成や実施に向けた法整備を進めると同時に、11月に同国ベレンで開催する気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)での発表に向けて、タクソノミー文書の最終設計を進めている。
タクソノミーがカバーするセクターは、農業、製造業、エネルギー、運輸、建設、観光を含む社会サービス、都市計画、IT・通信の8つだ。気候変動の緩和と適応に加え、社会的格差の縮小の3つを目標に掲げる。
■社会的格差の是正を目指す画期的な内容に
ブラジルのサステナブルタクソノミーは、環境目標だけでなく社会目標も組み込んだ点で画期的だ。EUタクソノミーは、環境目標を6つ定めているが、社会目標はない。
社会目標を盛り込んだ事例としては、メキシコのサステナブルタクソノミーが「ジェンダー平等」を導入している。ブラジルの枠組みはさらに踏み込み、ジェンダーに加えて人種の平等についての基準も盛り込んだ。
ほかにも、管理職におけるマイノリティの割合など、約40の指標に基づく報告を義務付け、資金調達を必要とする企業は、採用における差別の撤廃や、セクシャルハラスメント対策などに関する方針の策定など、最低限の社会的要件を満たす必要がある。
■森林伐採を伴う活動は「サステナブル」から除外に
環境目標でも画期的な内容を盛り込んだ。
例えば、合法であったとしても、原生植生の伐採を伴う活動はすべて「サステナブル」の範囲から除外となる。これにより2030年以降は、過去5年間に森林伐採が行われていないアセットのみが、グリーンラベル付きの融資を受けられることになる。
また、「グリーン」とされる排出量の閾値についても、現時点で最も厳しいタクソノミーをさらに上回る厳格な基準とする。EU、シンガポール、タイ、香港のタクソノミーでは、排出量の閾値はCO2換算で100g CO2e/kWhだが、ブラジルはこの水準をさらに下回る70g/kWhと設定する。
ブラジル財務省で社会・環境インパクト分析を統括するマティアス・カルドミンゴ氏は、タクソノミーの排出量基準値は、ブラジルのエネルギー構成が再エネ中心にシフトしてきたことで、この水準を設定できるようになったとコメントする。
「このタクソノミーを通じて、GHG低排出型の電力を生産している我が国のエネルギーの優位性を示したい」(カルドミンゴ氏)
なお、EUタクソノミーと同様に、天然ガスは移行燃料として位置付け、炭素回収技術の導入などの特定の条件を満たすことで、2035年まではグリーンファイナンスの対象となる。