記事のポイント
- 地球温暖化の進行に伴い、熱帯低気圧による豪雨災害が激甚化している
- 九州大学は、台風による極端降水の将来予測を地域別で研究し、その内容を公表した
- それによると、今世紀末には台風による降水は、日本で3倍超に増えるという
地球温暖化の進行に伴い、熱帯低気圧による豪雨災害が世界各地で激甚化し、異常気象から極端気象へと深刻度を増している。そのような中、九州大学は12月1日、夏季の東アジアの台風がもたらす、将来の降水予測についての研究結果を発表した。それによると今世紀末には日本での台風による降水は3倍超に増え、東アジアの中でも顕著に豪雨災害リスクが高まることが明らかになった。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

今回の研究結果は、九州大学大学院理学府博士後期課程3年の呉継煒大学院生ならびに同大学院理学研究院の川村隆一教授らによる研究グループによるものだ。

筑波大学地球科学系助手、防災科学技術研究所主任研究官、富山大学理学部教授を経て、現在、九州大学大学院理学研究院教授。理学博士。
■東アジアの地域特性を踏まえた分析結果に
東アジアで発生した夏季の豪雨災害には、台風による極端降水に起因する事例がこれまでも多々あった。しかし、地球温暖化によって各地の台風降水がどのように増減するのか、具体的に地域別で示した将来予測はなかった。
川村教授らは、2010年から2019年までの10年間の夏季(7月~9月)に東アジアで発生したすべての台風111個について再現実験を試みた。そのうち、台風の強度や経路などの再現性が、客観的に一定基準を満たした台風計38個について、地球温暖化によって台風による降水がどのように変化するのか、擬似温暖化実験を実施した。
その結果、今世紀末に地球の平均気温が産業革命前から2.5℃~3℃上昇するシナリオの下では、中国南部と日本では台風による降水量が増加する一方、朝鮮半島南部では減少するとの地域特性を確認した。

©九州大学・川村隆一研究室
■台風本体から離れた「遠隔降水」も考慮が必要
川村教授らは、台風の降水を予測するに際して、台風本体がもたらす「コア降水」だけでなく、台風進路の予報円から遠く離れた地域でも台風の影響によって局地的な豪雨となる「遠隔降水」についても、将来予測の中に取り込んで分析した。
川村教授はオルタナの取材に対し、「2024年8月末に台風10号が九州に上陸した際に、関東・東海・四国にかけて降った大雨や、2024年9月下旬に、中国大陸と朝鮮半島の間の黄海にあった台風の影響で、北陸・能登半島に降った極端な大雨が、まさに遠隔降水だ」と説明する。
「台風降水の将来予測をする上では、『台風コア降水』だけでは不十分であり、『遠隔降水』とともに評価する必要がある」(川村教授)
今回の九大の研究では、東アジア全体で今世紀末に台風による降水が約2.3倍に増加すると見込む。またその主な増加要因は、遠隔降水の増加によるものだという。
一方で、日本では今世紀末に、3.1倍に台風による降水量が増えると見込むが、その主要因は、遠隔降水よりもむしろ、台風コア降水の増加によるという。これは言い換えると、日本に接近または上陸する台風が将来増える、ということだ。

水色は過去10年間の夏季の台風降水(再現実験)、オレンジ色は擬似温暖化実験での降水量予測。
©九州大学・川村隆一研究室
■なぜ日本に接近する台風が増えるのか
■「減災・防災、リスク評価に役立てて」

