複合リスク時代、サステナビリティは「経営の安全保障」へ

記事のポイント


  1. 地政学リスク、エネルギー危機などが連鎖する「複合リスクの時代」に入った
  2. サステナビリティを「経営の安全保障」として再定義する構想力が重要に
  3. サステナ経営は社会の安定と持続的な企業価値創造に貢献する

世界はいま、地政学リスク、エネルギー危機、食料不安、気候災害などが相互に連鎖する「複合リスクの時代」に突入しています。社会の不安定化が企業活動を直撃する中で、サステナビリティはもはや環境・社会への配慮にとどまりません。外部ショックから企業を守り、社会の安定と持続的な価値創造に貢献するための「経営の安全保障*」として位置付けることが重要です。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤直見)

*:本稿でいう「経営の安全保障」とは、不確実性が常態化する時代において、外部ショックから企業を守るだけでなく、エネルギー、資源、人材、信頼、供給網といった事業基盤を持続的に強化することで、中長期的な価値創造を可能にする経営の考え方です。

■自由貿易と国際協調を前提とした経営モデルに揺らぎ

経済産業省は2025年11月26日、「経済安全保障経営ガイドライン(第1版)案」を公表しました。これは、従来は国家レベルだった経済安全保障を企業経営に拡張し、企業が取り組むべきポイントを初めて包括的に示した点で大きな意義があります。現在パブリックコメントを経て、年内の正式な公表が予定されています。

自由貿易と国際協調を前提とした経営モデルが揺らぎ、資源・エネルギー・技術・供給網が安全保障と直結する構造へと変化しました。その結果、企業は短期の利益ではなく、中長期の損失回避と価値創造を見据えた経営判断が求められています。

このような時代に企業は何を守り、何に投資すべきなのか。サステナビリティは既存の枠を超えて、「経営の安全保障」としての重要性を高めています。

■価格急騰や供給不安で「自国第一」が強まる

2022年に始まったウクライナ戦争は、世界の生活インフラを支える天然ガス、小麦、肥料などのエネルギー・食料関連市場に深刻な混乱をもたらしました。価格の急騰や供給不安が連鎖する中で、多くの国が自国民の生活と経済の安定を最優先する姿勢を強めました。

欧州では、冬季のエネルギー確保に向けて、一部の国で石炭火力の再稼働が進み、家庭や企業向け電力・ガス料金の補助が拡大しました。

米国では、エネルギー由来のインフレと政治的分断が重なり、ESG投資を巡る規制姿勢が州ごとに二極化しました。新興国でも、生活コスト高騰への対応として燃料補助が優先され、再生可能エネルギーや脱炭素への投資が一時停滞するケースもありました。

短期的には多くの国で、脱炭素や環境配慮よりも生活と経済の安定を優先せざるを得ない状況が続き、サステナビリティが後退したように映るかもしれません。

■不確実性の時代にこそ「経営の安全保障」を

しかし、企業経営という観点に立てば、むしろ今こそサステナビリティへの投資が「経営の安全保障」としての重要性を増しています。これは環境・社会への善意ではなく、企業の生命線としてのエネルギー、資源、人材、信頼、供給網を安定化させるための戦略的投資だからです。

■脱炭素への投資はエネルギー安全保障の強化に
■サプライチェーンの多元化は地政学リスクへの備え
■人的資本への投資は企業を支える本質的な安全保障
「サステナと安全保障」の掛け算で価値創造を
■安全保障の時代ほど、サステナは企業価値の核心へ

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遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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