PFAS規制巡る攻防、欧州で活発:ロビー活動の誤情報も

記事のポイント


  1. 欧州委員会は、一部の産業用途を除き、消費者製品へのPFAS使用を禁止する方向だ
  2. これを受け、適用除外を求める業界関係者からの声が5千通以上集まる
  3. 科学者とジャーナリスト連合が明らかにしたロビー活動の誤情報が波紋を呼ぶ

欧州委員会は、消費者製品へのPFASの使用を禁止する方向で準備している。しかし法案の提出前から、化学業界を中心に、適用除外を求める声が5千件を超えるほど集まっているという。そのような中で、科学者とジャーナリストらの連合は、ロビー団体の主張の誤情報を明らかにした調査結果を公開した。日本企業の名前にも触れたこの内容は、欧州各国で波紋を呼んでいる。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

EUは消費者製品へのPFASの使用禁止を検討している

■欧州では来年にもPFASの消費者製品を使用禁止の法案提出へ

PFASとは、有機フッ素化合物の総称で、1万種類以上の物質があるとされている。自然界でほとんど分解せず、生物の体内に蓄積することから、「永遠の化学物質」とも呼ばれる。

PFASは、水や油をはじき、熱に強く、腐食に対する耐性があることなどから、調理器具の焦げ付き防止や、衣料品の防水・撥水加工、食品包装や化粧品、消火剤や半導体、さらには航空機や風力タービンまで、数千もの製品に幅広く使われている。

しかし、自然界で分解されないことによる環境懸念に加え、最近の研究では、がん、肝臓や心臓への影響、子どもの発達や免疫系への影響など、さまざまな健康被害との関連性への懸念も明らかになってきたことから、各国でPFAS規制の強化が進む。

ニュージーランドは2024年1月、化粧品でのPFAS使用を禁止すると発表した。米国では2024年に、PFASを使用した食品包装容器の販売が中止されたほか、2025年1月からはカリフォルニア州、ニューヨーク州などの州で、衣料品での使用も禁止となった。

参考記事:全国で検出相次ぐ「PFAS」、その問題点と対策は
参考記事:米で進むPFAS規制、衣料品にも:25年から一部の州で販売禁じる

欧州では2023年に、デンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデンが広範な領域でのPFAS禁止を支持する考えを表明した。欧州委員会は、化粧品やテフロン加工のフライパンなど、広範な消費者製品において、PFASの使用禁止を提案する方向で準備を進めている。

EUのジェシカ・ロスウォール環境担当委員は今月、早ければ来年にも法案を提出するとロイターにコメントした。そして、消費者製品に対する使用禁止を求める一方で、喘息用吸入器や電気自動車に必要な半導体部品などの一部の産業用途では、廃棄方法に一定の制限を設ける形で、禁止の適用除外を検討する可能性も示唆した。

■天文学的な規模の訴訟リスクを恐れ、適用除外を求める業界の声

そのような中で、欧州化学機関(ECHA)には、自動車、クリーンエネルギー、プラスチックなどのPFASに関連する業界関係者から、適用除外を求めるコメントが5千件以上、寄せられている。企業が懸念しているのは、「天文学的な規模になりかねない」ともいわれるPFAS訴訟リスクだ。

ニューヨーク・タイムズ紙は2024年6月、同年初めに開催されたプラスチック業界の会議で、業界側の代理人弁護士が、PFASに関して「天文学的な」費用がかかるかもしれない訴訟が次々に起こるのに備えるよう講演したと報じた。

実際、米国では、3Mや、デュポンから独立したケマーズなどの企業は、水質汚染をめぐって訴訟に直面し、これまでに110億ドル(約1.7兆円)以上の和解金を支払った。

欧州でPFASの規制が強化されれば、「欧州企業も同様の訴訟の波に直面する可能性がある」と、環境法律事務所クライアント・アースのエレーヌ・デュギー弁護士は、欧メディアにコメントした。

ベルギーに拠点を置くNGOの連合体「ヘルス・アンド・エンバイロメント・アライアンス(HEAL)」は、欧州全域でPFAS汚染を浄化するには、年間1000億ユーロ(約16兆円)のコストがかかると試算する。

HEALが進めた調査では、調査対象となった全人口の血液の中にすでにPFASの存在が確認されており、PFAS関連の健康被害額は、欧州だけでも推定で840億ユーロ(約13.5兆円)に上るという。

■ロビー団体の主張の真偽を精査したレポートが波紋を呼ぶ

そのような中で、PFAS関連業界に釘を打つかのようなレポートが1月14日に公開され、欧州で波紋を呼んでいる。

公開したのは、仏ルモンド紙などに所属する16カ国46人のジャーナリストが主導する「フォーエバー・ポリューション・プロジェクト」だ。このプロジェクトは、国際的な学術機関や弁護士などと協力し、プラ製造企業など、PFASに関連する業界が提出した8189件の文書の中から、1178件の主張を重点的に数か月にわたって検証した。

英ブリストル大学で企業被害学を専門とするゲイリー・フックス教授とともに、ロビー団体による主張内容を「科学的論拠」「PFAS代替品はないとする論拠」「経済的論拠」の3つに分類し、それぞれの主張の真偽を学術的な観点から精査した。

例えば「科学的論拠」に分類された主張は、「すべてのPFASが、健康被害の懸念があるポリマー(PLC)ではない」「毒性はない」「廃棄物の管理は可能だ」「排出を管理することはできる」といった論拠に立ち、「既存の規制で十分」「自主規制でよい」といったロビー活動を展開しているという。

同様に、「PFAS代替策はないとする論拠」は、「医薬品不足」や「社会的利益・インパクト」などを挙げて、「例外措置」や「免除」を求めたり、「PFAS禁止までの移行期間をより長くしてほしい」というものだ。「経済的論拠」は、「PFASの禁止は欧州経済に悪影響を与える」や「雇用の喪失につながる」といった内容だ。

フォーエバー・ポリューション・プロジェクトはこれら主張を整理した上で、その真偽を学術的に分析した。その結果、プラスチック業界のロビー団体が好む「科学的論拠」には、現在の科学の裏付けがない誤情報が多く、「潜在的に不誠実だ」とした。

■「誤情報」「誤解を招く」とされた主張とは
■ロビー団体の加盟企業には、複数の日本企業の名も
■ロビー団体の論拠は業界の利害関係者が執筆した論文を多用か
■PFASの全面禁止による経済へのプラスの影響も

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #サステナビリティ

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