LNG運搬船の拡大が海運企業の新たなリスクに:NGOが警鐘

記事のポイント


  1. 日本の海運大手はLNG需要の世界的な高まりを見据え、運搬船を増やす計画だ
  2. 環境NGOは、LNG運搬船が座礁資産化や気候訴訟の対象になるリスクを指摘
  3. 運搬船の拡大は、気候変動対策への不作為と捉えられかねない

LNG(液化天然ガス)の需要の世界的な高まりを見据え、LNG運搬船の増産が続いている。商船三井は150隻、日本郵船は130隻に増やす計画だ。しかし、環境NGOの「気候ソリューション(SFOC)」は、現実にはLNGの過剰供給が起きており、運搬船が座礁資産化や気候訴訟の対象になるリスクも高いと警鐘を鳴らす。LNGは石炭や石油と並ぶ化石燃料であり、運搬船の拡大は気候変動対策への不作為と捉えられかねない。(オルタナ副編集長=長濱慎)

「気候ソリューション」が1月8日に発表した最新報告書

■国内海運大手3社は船隊拡大へ

米国、豪州、中東など各地で生産されたLNG(液化天然ガス)を、アジアなどの消費地へ海上輸送するのがLNG運搬船だ。LNGを液体のまま輸送できるよう、タンクの内部はマイナス162℃に保たれる。

船隊の規模は2014年からの10年間で約3倍に拡大し、世界では約800隻が稼働中、約300隻が建造中だ。造船においては韓国が約70%のシェアを占め、保有数においては日本の海運大手の存在感が際立つ。

各社の発表や報道によると、商船三井は2030年までに約150隻、日本郵船は28年までに130隻と、現行の約1.5倍に増やす計画だ。現在は約50隻の川崎汽船も、将来的には100隻規模への拡大を視野に入れているという。

船隊拡大の背後には、世界的に高まるとされるLNGの需要がある。LNGは化石燃料の一種だが脱炭素移行期の「橋渡し燃料」とされ、英シェルはアジア地域の経済成長を背景に2040年までに60%の需要増加を予測する。

■需要頭打ちで座礁資産化のリスク

しかし、環境NGO「気候ソリューション(SFOC:Solutions for Our Climate)」のレイチェル・シン氏は「現実にはアジアでもLNGの供給過剰が起きており、LNGへの投資を延期する動きも出ている」と指摘する。

SFOCはパリ協定を受け、気候変動対策を専門とするNGOとして2016年に韓国で設立。シンガポールを拠点に活動するレイチェル氏は、こう続ける。

「発電においては再生可能エネルギーの方が安価になり、パキスタンのように『もはやLNGは主要エネルギーではない』と言い切った例もある。アジアを含む多くの国がウクライナ戦争によるLNGの価格急騰を経験しており、今後はLNGよりも再エネの普及が進んでいくだろう」

LNG運搬船は建造に約3年かかり、寿命はおおむね30年を想定している。現在すぐに就航した場合は2060年頃まで使い続けることになり、脱化石燃料・再エネシフトが進む中で座礁資産化するリスクが極めて高い。

SFOCのレイチェル・シン氏。シンガポールを拠点に、船舶金融やガス産業を巡る動向などの調査を行う

■「年間127億トン」のGHG排出に関与

さらに問題なのが、気候変動を悪化させるリスクだ。SFOCは2025年5月に発表した報告書で、LNG運搬船の関与によって排出される温室効果ガス(GHG)の量を年間最大127億トンと見積もった。

127億トンは、全世界のGHG排出量(2024年で約577億トン)の約20%、最大排出国の中国(約156億トン)に迫り、日本の排出量(約9.1億トン)の12倍以上に相当する。

これはエンジンなど船からの直接排出量だけでなく、Enabled Emission(エネイブルド・エミッション:誘発排出)の考え方に基づいて間接的な排出量も加味した数値だ。

エネイブルド・エミッションとは「LNG運搬船が存在することで可能になった排出量」を意味し、天然ガスの採掘やプラントでの液化、輸送や火力発電での燃焼といったサプライチェーン上流から下流までのさまざまな排出量を含む。GHG排出量の「スコープ3」に近い概念といえるだろう。

レイチェル氏は、こう考えを述べる。

「海運企業が報告するGHG排出量は一部にとどまり、LNGのライフサイクル全体を考慮していない。それが抜け穴となり、気候変動への影響を過小評価する結果となっている。『LNGを運ぶためだけに存在する浮体インフラ』というLNG運搬船の役割を伝えるために、エネイブルド・エミッションという考え方を用いた」

LNGは化石燃料の中でもGHG排出量が少ないという理由から、先記の通り「橋渡し燃料」に位置付けられる。しかし、これは燃焼時だけを石炭と比較した場合に過ぎない。2024年に米コーネル大学が発表したレポートは、サプライチェーン全体で比べるとLNGのGHG排出量が石炭を30%以上も上回ると指摘した。

LNGの主成分であるメタンの温暖化係数はCO2の25倍ある。LNGプラントで、圧力調整のため日常的に大気中にメタンを放出している実態も明らかになっている。こうしたLNGの実態が広く知られることになれば、間接排出量に対する海運企業の責任も厳しく問われる可能性が高い。

127億トンの試算条件など詳細は、2025年5月の報告書『No Room for More』で

■サプライチェーン上の全企業が訴訟対象に

■人権侵害への関与を問われるリスクも

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #脱炭素

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