トランプ政権下でも米バイオエタノール産業は輸出攻勢へ

記事のポイント


  1. 地球温暖化への対応が求められる中、バイオエタノールが注目されている
  2. ガソリン比でCO2を約7割削減でき、製造・輸送過程の脱炭素化も進む
  3. 米国のバイオエタノール業界が取り組む脱炭素化の動きについて紹介する

いま米国がバイオエタノールの輸出に力を入れていることはあまり知られていない。ましてや地球温暖化のファクトを否定するトランプ政権下であるから、意外に思われる人も多いだろう。そして輸出先のターゲットの一つは日本のようだ。その最新情勢を、財部明郎・オルタナ客員論説委員(技術士)に寄稿してもらった。

今は冬だから、もうお忘れの方もいらっしゃるかもしれないが、昨年、一昨年と続けて、わが国は記録的な猛暑を経験した。この猛暑の原因は一つではないが地球温暖化がなければ、これほどの猛暑にはならなかったといわれている。世界的にも地球温暖化が原因と考えられる気候変動現象が頻発している。

気候変動対策として効果的なのはCO2を始めとする温室効果ガスの排出量を減らして、吸収量と一致させる、つまりカーボンニュートラルを達成することだ。このための有力な方法の一つがバイオエタノール。バイオエタノールを燃やした時に排出されるCO2の量はその原料となる植物が吸収したCO2と一致するから、差し引きゼロ。それ自体でカーボンニュートラルを達成しているといえる燃料である。

わが国では2030年からガソリンにバイオエタノールを10%添加したガソリン、いわゆる「E10ガソリン」を一般に販売する計画がある。またEUでは、2035年以降、CO2を排出する乗用車とバンの販売は認めない方針であったが、バイオ燃料などを使う車両に限っては、例外的に販売を認めると2025年末に発表している。これはバイオエタノールのCO2排出量と原料作物の吸収量が一致して、CO2を排出していないのと同じと考えられるからである。

■製造・輸送段階のCO2排出が問われる

このように、バイオエタノールは脱炭素の手段として、世界中でその使用が増えている。ではこのバイオエタノール、本当にカーボンニュートラルなのだろうか。「おいおい、今、バイオエタノールはカーボンニュートラルだと書いたばかりなのに、それが本当かとはどういう意味だ」とお叱りを受けそうである。

ちょっと説明すると、バイオエタノール燃料に関連して排出されるCO2には2種類ある。一つはバイオエタノール自体の燃焼で排出されるCO2。もう一つは、その原料となる植物の栽培段階や、それをバイオエタノールに加工する段階、あるいはバイオエタノールを消費者に輸送する段階というようなバイオエタノールの製造や輸送に伴って間接的に排出されるCO2である。

バイオエタノールの燃焼によって排出されるCO2については、先ほど述べたように植物が成長過程で空気中のCO2を自分の体に取り込んだものだ。バイオエタノールが燃えるとCO2が排出されるが、結局、大気から取り入れたCO2を大気に戻すだけだから空気中のCO2を増やさない。つまりカーボンニュートラルが成り立つ。

しかし、バイオエタノールの製造や輸送に伴って間接的に排出されるCO2は必ずしもカーボンニュートラルのものだけではない。理想的にはバイオエタノールはその燃焼段階だけでなく、その原料の栽培から製造、流通、さらには土地利用変化までも含めた、つまりライフサイクルで排出されるCO2についてもできるだけ少ないことが望ましい。

世界最大のバイオエタノール生産国の米国では、いまこのような間接的に排出されるCO2についてもその量を減らそうと熱心に取り組んでいる。2025年12月、米国バイオエタノール産業が脱炭素を目指す取り組みについてのカンファレンスが、アメリカ穀物バイオプロダクツ協会の主催で開催された。このカンファレンスの中から、米国のバイオエタノール業界が取り組む脱炭素化の動きについて紹介したい。

■ガソリン比でCO2を約7割削減できる
■栽培工程での脱炭素のカギは肥料に
■精密農業で肥料や薬品の使用を抑える
■不耕起栽培で土壌のCO2放出を防ぐ
■休耕期にCO2を吸収するカバークロップ
■製造時の低炭素化をどう実現するか
■CCSで発酵工程のCO2を閉じ込める

■ガソリン比でCO2を約7割削減できる

バイオエタノールを燃料として使ったときに直接的に排出されるCO2はカーボンニュートラルであるが、問題はそれ以外の間接的に排出されるCO2である。カンファレンスではその量をGREETとよばれるモデルを使って積算したデータが紹介された。

GREETは米国で生産されるバイオエタノールのCO2排出量について、その原料栽培から燃焼、廃棄などまで含めたライフサイクル全体で27gCO2/MJ(メガジュール)と見積もっている。下の図はその内訳を示したものだ。

GREETは、バイオエタノールの原料栽培から燃焼、廃棄などまで含めたライフサイクル全体でのCO2排出量を27gCO2/MJと見積もった
GREETは、バイオエタノールの原料栽培から燃焼、廃棄などまで含めたライフサイクル全体でのCO2排出量を27gCO2/MJと見積もった

一方、原油から生産されるガソリンのCO2排出量は、これも原油の採掘から輸送、精製、燃焼などすべてを含めたライフサイクルで88.47 gCO2/MJ(こちらは日本の資源エネルギー庁にょる)であるから、米国産バイオエタノールはガソリンに比べてCO2排出量を約7割削減できるということになる。

ライフサイクルでのCO2排出量を炭素強度(CI)というが、米国のバイオエタノール産業は、この間接的に排出される分を含めて炭素強度をもっと下げようとしているわけであるし、実際炭素強度は毎年順調に低下してきているという。

では、かれらはどうやって、このように炭素強度を削減しようとしているのだろうか。それは一つの方法ではなく、さまざまな改善の積み重ねによる。

例えば原料のトウモロコシを栽培する工程では、精密農業、不耕起栽培、カバークロップなど。バイオエタノール製造工程では、高効率乾燥機や高効率ボイラー、発酵の工程管理、再生可能エネルギーなど細かな改善を積み重ねているのである。

さらには、バイオエタノール発酵工程で発生するCO2を回収して地層に貯留するCCS(炭素回収貯留)も行おうとしている。CCSが軌道にのれば、バイオエタノールの炭素強度はさらに大幅に低減されていくことになるだろう。

■栽培工程での脱炭素のカギは肥料に

米国の場合、バイオエタノールの原料は主にトウモロコシだ。このトウモロコシ栽培や収穫の時に発生するCO2はライフサイクル全体の38%を占める。その内訳は、一酸化二窒素が18%、肥料や薬品類の製造が12%、窒素肥料や石灰から排出されるCO2が8%、エネルギー消費が4%となっている。

一酸化二窒素というのは窒素肥料が分解されたときに排出される物質で、CO2の300倍もの温室効果を持っている。また肥料や石灰からもCO2が発生する。さらに肥料や薬品類を製造する過程まで遡って排出されるCO2も勘定に入れなければならない。

このように、トウモロコシの栽培工程で発生する温室効果ガス(CO2だけでなく一酸化二窒素などを含む)の大半は肥料の使用が原因であることが分かる。したがって、栽培工程で排出されるCO2を削減するには肥料を管理することが重要となる。

■精密農業で肥料や薬品の使用を抑える

精密農業(プレシジョンファーミング)とは、衛星・ドローン画像、センサー、AIなどのIT機器を用いて栽培する作物を、より正確かつ効率的に管理する農業手法のことである。例えばGPSを使ってトラクターの正確な位置を特定したり、センサーを用いて土壌水分、栄養レベル、作物の健全性を地域ごとに確認したりする。あるいは、ドローンや衛星画像によって生育状況を細かく監視する。

こういった方法によって、肥料や水、農薬などの投入物を適切な場所に、適切な時期に、適切な量で施用することができ、温室効果ガスを発生する恐れのある肥料や薬品類の使用を最小限に抑えることができる。

■不耕起栽培で土壌のCO2放出を防ぐ

不耕起栽培とは、土壌を耕さずに、作物の刈り株やわらを土の表面に残したまま次の作物を育てる農法である。耕起すると微生物活動が活発化して有機物が分解され CO2として大気に放出されるが、耕起しなければこのようなCO2放出を防ぐことができる。これによりトウモロコシが吸収したCO2の一部が地中に貯められることになり、大気中のCO2濃度を減らす作用がある。

トウモロコシの収穫風景(収穫後の株やわらがCO2を貯蔵する)
トウモロコシの収穫風景(収穫後の株やわらがCO2を貯蔵する)

■休耕期にCO2を吸収するカバークロップ

カバークロップ(被覆作物)とは、主作物の合間や休閑期に畑の地面を覆うように栽培する収穫を目的としない作物のことである。カバークロップは土壌の保護や土壌改良などの役割を持つが、それだけでない。休耕期でも光合成を行うから、この間に空気中のCO2を吸収する

吸収されたCO2はカバークロップが枯れたあとも、その一部が土壌の中に有機炭素(SOC)として固定される。これによってCO2排出量を削減するどころか、むしろ空気中のCO2を土の中に封じ込め、空気中のCO2濃度を減らすことになる。 

■製造時の低炭素化をどう実現するか

収穫されたトウモロコシはエタノールプラントに運ばれる。プラントではトウモロコシに含まれるデンプンに酵素や酵母を加えて発酵させ、さらにこれを蒸留して純度の高いエタノールを製造するわけであるが、この製造工程でも脱炭素化が図られている。

ここでは石油の精製工場や化学工場でも行われている脱炭素化や省エネと同様の方法が使われる。例えば、バイオエタノール製造時にDDGSという飼料が副産物として生成するが、この乾燥に使うボイラーや乾燥機を高効率のものに取り換える。あるいは熱回収を強化する。CHP(Combined Heat and Power)を導入する。効率のよい酵素や酵母を採用する。などである。

また、プラント内で使用される電力としては、原子力や風力、太陽光で発電されたものを積極的に使用したり、可能な場合はプラント内で風力発電を行ったりして、いわゆるスコープ2のCO2排出量削減にも取り組んでいる。

■CCSで発酵工程のCO2を閉じ込める

いま注目されているのがCO2回収および貯留(CCS)である。これはバイオエタノール発酵工程で発生したCO2を回収して地下に圧入して大気中に排出しないようにする方法である。

米国のトウモロコシ農業地帯(コーンベルト)には地下にCO2を貯留できる砂岩層と、貯留されたCO2が漏れ出るのを防ぐキャップロックとよばれる地層があり、ここに回収したCO2を圧入すれば永久的に地上には出てこないと考えられている。

発酵時に発生するCO2は、これ自体が植物が成長時に大気から吸収したCO2がもとになっているわけであるから、これを大気中に放出してもそもそも大気中のCO2濃度を増やさない。これを回収して地下に貯留すれば、大気中のCO2濃度を下げる働き、つまりカーボンニュートラルではなくてカーボンネガティブとなり、気候変動対策としては効果が大きい。

■バイオエタノールの日本への輸出増へ
■脱炭素化が生産時のコストダウンに
■トランプ政権の逆風に逆らう

※この続きは、こちらのWEBサイトでお読みいただけます。

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財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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キーワード: #脱炭素

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