記事のポイント
- 第一三共ヘルスケアから日本初の市販の緊急避妊薬「ノルレボ」が販売開始となった
- 「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」の視点で、大きな前進だ
- SRHRのさらなる啓発に向けて、取り組むべき課題を探った
第一三共ヘルスケア(東京・中央)から2月2日、日本初となる市販の緊急避妊薬「ノルレボ」が販売開始となった。「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」の視点では、大きな前進だ。SRHRのさらなる啓発に向けて、取り組むべき課題を探った。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

第一三共ヘルスケアが実施した調査によると、1年以内に性行為の経験がある18~49歳の日本在住女性のうち、予期しない妊娠のリスクを経験した割合は約2割にも上った。その状況に直面して初めて、不安と焦りの中で、避妊や緊急避妊薬の情報を探すケースも少なくない。
緊急避妊薬(アフターピル)は、「避妊に失敗した」または「避妊できなかった」性行為から72時間以内に服用することで、妊娠を約8割防げる薬だ。性行為の後、服用が早いほど効果が期待できる。
第一三共ヘルスケアは、販売開始に先がけて、緊急避妊薬を必要とする人を総合的にサポートするブランドサイトを1月から開設した。製品の詳しい情報や購入・服用の流れ、服用前のセルフチェック、相談窓口などの情報を掲載する。
また、現在地や駅名、住所などから緊急避妊薬の取扱店舗を検索できるページも併設し、必要とする女性が速やかに購入できる環境整備も図る。

https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/site_norlevo/
さらに、累計2200万人がダウンロードした女性のヘルスケアサービス「ルナルナ」(運営会社:エムティーアイ)とも連携し、避妊に関する情報提供や、予期しない妊娠リスクに直面する女性をサポートする。
第一三共ヘルスケアはオルタナの取材に対し、「現時点では、ブランドサイト上での啓発情報の発信のみとなっているが、今後、大学などの教育機関とも連携し、避妊に関するテーマを中心にSRHRの啓発に注力していく。その取り組みでは、男性も含めた啓発を実施していきたい」と回答した。
■「性と生殖に関する健康と権利」の前進に
「SRHR」とは、「セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual Reproductive Health/Rights)」の頭文字をとった略称で、「性と生殖に関する健康と権利」と訳される。
自分の体、性や生殖について、誰もが十分な情報を得られ、自分の望むものを選んで決められること、そしてそのために必要な医療やケアを受けられることをいう。これは基本的人権だ。
世界の約90カ国・地域では、医師の処方箋がなくても薬局で薬剤師から購入することができ、なかには無料で提供される国・地域もある。しかし日本ではこれまで、医師の診察を受け、処方箋をもらわないと緊急避妊薬を買うことができなかった。
「ノルレボ」は、購入者に年齢制限はない。未成年であっても保護者の同意は必要ない。
SRHRの視点で見れば、今回の販売開始は大きな前進だ。
厚労省の「緊急避妊薬販売に係る環境整備のためのモデル的調査研究」事業に参加してきたケイ薬局(東京・台東)で、早くから薬剤師として研究に取り組んできた特定非営利活動法人HAP(東京・台東)の宮原富士子理事長は、市販の緊急避妊薬の販売開始に「歓迎だ。ファーストタッチポイントとして必要だと思う」とオルタナに答えた。
日本で市販の緊急避妊薬の販売が長く実現しなかった経緯を、性教育講師・思春期保健相談士のにじいろさんは、著書『10代の妊娠~友だちもネットも教えてくれない性と妊娠のリアル』(合同出版)の中で、次のようにまとめる。
日本で2017年に薬局販売が検討された際には、「薬局で薬剤師が説明するのが困難」「安易な使用が広がる」などの懸念から見送られ、2020年に政府が薬局での購入方針を固めた際も、「性教育が不十分」「悪用するかもしれない」などの反対の声もあがった。
■SRHR啓発に向けた課題は
「ノルレボ」は、研修済みの薬剤師からプライバシーに配慮した場所で説明を受け、対面で服用する必要がある。薬を持ち帰ったり、男性が買ったりはできない。価格は1錠7480円(税込み)だ。
また取扱店舗の数も、2月2日の販売開始時点で全国約7000店舗だ。地域によっては県に数店舗しかないなどの地域差がある。また、薬剤師の勤務時間や入荷状況によっては購入できない可能性もあり、厚労省は事前に電話で連絡することを推奨している。
宮原理事長は販売開始を歓迎しながらも、「薬剤師の業界が、SRHRなどに長けているかというと、業界としてはまだ追いつけてないという感もあり、心配はしている」と話す。「薬局経営者の7割が男性であり、薬剤師の世界にもジェンダーギャップはある」(同)
「薬剤師が緊急避妊薬を販売する際に、普通の市販の医薬品販売と考えるのではなく、福祉とSRHRの視点から販売できるかどうか、販売する側がきちんと自覚できていないのではないかという懸念もある」(宮原理事長)と、緊急避妊薬の取り扱いにおける現時点の課題を挙げた。
■薬局・ドラッグストアが『性暴力110番』の役割に
薬局やドラッグストアには、性犯罪・性暴力被害に遭って緊急避妊薬を必要とする女性が来るケースもある。
性犯罪被害等の恐れがある場合は、社会的支援の観点から、警察や性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターなどと連携すべきかどうかも、店舗の薬剤師に判断がゆだねられる。
宮原理事長は、「福祉やSRHRに精通し、いざという時に、つなぎの人脈を持っている薬局を広く公表して、そこをタッチポイントとできるような広報も必要だ。そのためには婦人科的包括ケアの協働が大事になってくる」と話す。
また、「薬局のような目立つ場所、誰もが行く場所に、『こども110番』のように『性暴力110番』であるフラグを立てることも大事だと思う。生活の中にあるタッチポイントからつないで、必ず助けていく、支援していくんだという姿勢を示すことが大事だ」と力を込めた。



