「トランプ自伝」の翻訳家が見たドナルド・トランプ

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これは確かにある程度の説得力がある。政治の仕組み上、企業や利益団体の意を汲まざるを得ない議員が多いワシントンで、誰のひも付きでもないトランプ氏は特異な存在だ。

何のしがらみもない立場で、日産自動車のてこ入れに大なたを振るったカルロス・ゴーン氏や、あるいはワンマン経営者として思い通りの経営をしたスティーブ・ジョブズ氏を連想させる。

問題は、不動産業界で培ったトランプ氏の見識が国際政治の舞台でどのくらい通用するかだ。日本ではメキシコとの国境の壁建設や、駐留米軍の費用負担問題が有名だが、それ以外にも過激な政策はいくつもある。米国国内問題を中心にいくつか紹介しよう。

「国内のエネルギーを開発しまくれ」―中東の産油国を敵視しているトランプ氏は、特にOPECが石油価格を自由に決めていることが我慢ならない。米国には国内需要をあと二百年賄える石油やシェールガスが存在する。「これを全部掘削しろ。自然破壊など気にするな。」

「法人税を引き下げ、海外に移転した米国企業を呼び戻せ」―法人税を15%にし、海外に移転してしまった法人を呼び戻す。逆に、米国から出ていく企業には罰則を科す。州によって異なるが、現在の法人税は約40%だからかなりの減額だ。

企業が課税を嫌って海外に移動した資産も米国に戻すよう奨励する。海外からのこうした送金は、一回に限り無税とする。これが実施されれば世界中に散らばっている莫大な米国資産が米ドルとなって国内に戻り、大量のドル買いが起こることは必至だ。これが現在のドル高円安の一つの要因になっている。

こうした施策が功を奏するかは、専門家の間でも意見が分かれている。実際、そうすんなりとはいかない気がするが、どれか一つでも実施されれば世界中の株式市場は乱高下するだろう。「再開発」のプロ、トランプ氏がワシントンをどこまで刷新できるか、世界は固唾を飲んで見守っている。

岩下 慶一(いわした・けいいち)
ジャーナリスト、翻訳家。ワシントン大学コミュニケーション学部修士課程修了。米国の文化・社会をテーマに執筆を行っている。翻訳書に『みんな集まれ!ネットワークが世界を動かす』『幸せになりたいなら幸福になろうとしてはいけない』(ともに筑摩書房)、『マインドフル・ワーク』(NHK出版)などがある。

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2016年12月2日(金)14:10

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