歴史は、どのように発展しているのか--田坂広志 オルタナティブ文明論 第1回

田坂広志(多摩大学大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表、社会起業家フォーラム代表)

※本記事は、2008年4月発行のオルタナ7号に掲載されたものを転載したものです。

 

これから、我々人類の文明は、どこに向かうのか。

その問いに対する答えを得るためには、まず、歴史というものが、どのような法則で発展しているかを学ぶ必要がある。

そして、その法則を教えてくれる一つの哲学が、ドイツの哲学者、ゲオルク・ヘーゲルの「弁証法」である。特に、彼の弁証法の主要なテーゼ、「事物の螺旋的発展の法則」は、我々に、歴史の発展のプロセスについて、深い洞察を与えてくれる。

では、それは、いかなる法則か。

それは、世の中の物事は、直線的な発展をするのではなく、あたかも「螺旋階段」を登るように発展するという法則である。

すなわち、螺旋階段を登る人物を、横から見ていると、上に登っていき、発展しているように見えるが、上から見ていると、螺旋階段を一周回り、元の位置に戻ってくる。過去への回帰と古き価値の復活が起こるのである。ただし、そのとき、この人物は、かならず一段、高い位置に登っている。

言葉を換えれば、歴史においては、その発展とともに、かならず「古く懐かしいもの」が復活してくる。ただし、「新たな価値」を伴って復活してくるのである。

この法則の事例は、枚挙にいとまがない。

例えば、いま、ネット革命によって世界中に広がっている「オークション」(競り)という購買方式。これは、昔、世界中の市場(いちば)の片隅に存在していた。しかし、効率化と合理化を追求する資本主義の発展の中で、統一価格での商品販売が主流となり、この方式は、ひとたび市場から姿を消していった。それが、ネット革命によって復活してきたのである。それも、単なる復活ではない。かつては数百人相手にしかできなかった競りが、いまでは、数百万人相手にできるようになったのである。

また、ネット革命で急速に広がっている「Eラーニング」は、実は、昔懐かしい「寺子屋」の復活でもある。集団教育ではなく、自分の能力と興味に応じて好きなペースで学べる方式の、高度な形での復活である。

さらに、現在、世界中で復活しているリサイクル運動も、かつて人類全体が貧しく、資源が貴重であった時代のリサイクル運動ではない。現在のリサイクル運動は、資源節約だけでなく、地球環境の保全をめざした、新たな次元での復活に他ならない。

では、もし歴史が、この螺旋的発展の法則に従うならば、これから人類の文明は、いかなる文明に向っていくのか。

その答えは明白であろう。

古く懐かしい文明の世界観が、新たな価値を伴って、復活してくる。

すなわち、人類の文明の黎明期を担った東洋文明。自然との共生と、生命論的世界観を中心としたこの文明は、歴史の舞台において、科学技術の発達と機械論的世界観によって力を得た西洋文明に、その主役の座を明け渡していった。しかし、これから、その西洋文明の機械論的な世界観の限界を超え、古い東洋文明の生命論的な世界観が、新たな価値を伴って復活してくる。

そのことは、例えば、地球環境問題の深刻化の中で、地球というものを一つの巨大な生命体と見る「ガイア思想」に多くの人々の注目が集まることや、仏教思想の「山川草木国土悉皆仏性」に影響を受けた「ディープ・エコロジー」の思想が広がっていくことに象徴されている。

しかし、もし東洋文明の世界観が復活するならば、その「新たな価値」とは、何か。

そのことを、次回以降、述べていこう。

Profile

(たさかひろし)74年、東京大学卒業。81年、同大学院修了。工学博士。87年、米国バテル記念研究所客員研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。取締役を務める。00年、多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立。代表に就任。 www.sophiabank.co.jp
ヘーゲルの弁証法について詳しく知りたい方は、著者の『使える弁証法』(東洋経済新報社)を。

 

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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