福島第一原発の事故を受け、再び2022年の脱原発を決めたドイツ。本書『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』は、1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけにした反原発運動から、自然エネルギー供給会社設立に至った市民の活動を描いている。ドイツ在住ジャーナリストの田口理穂さんが執筆した。
ドイツ南部の黒い森に位置するシェーナウ市の市民たちは、数々の困難を乗り越え、シェーナウ電力会社を設立。組合制の会社で、現在はドイツ全土の13万5000の顧客に自然エネルギーを供給している。
ドイツ広しといえども、チェルノブイリ原発事故をきっかけに起業し、大手電力会社から送電線を買い取ったのはここだけ。1998年の電力市場自由化以前のことで、市民電力の先駆けである。教師や技師、医者という素人たちが本業のかたわら電力会社を興し、2度の市民投票を勝ち抜き、電力供給を始める過程がテンポよく書かれている。
社員70人を抱えるまでとなった今も「社会的企業」と自らを称し、各地の分散小型発電や国内外の反原発運動を支援している。すべて「原子力のない社会をつくりたい」という信念で動き、芯がぶれない。
特に、創設者の一人ウルズラ・スラーデクさんのインタビューを読んでほしい。スラーデクさんは5人の子どもを持つ主婦だった。電力の無駄使いが大きな原因だと考え、省エネを始める。
ただし、「楽しくなければ続かない」と考え、省エネコンテストを開始するなど、多くの人を巻き込んでいく。エネルギーは「人類にとって最も大事なテーマの一つ。市民参加が正しい形」といい、行動に移していく。
25年以上も前に始まったシェーナウ市民の活動は、現在の日本でも大いに参考になるだろう。
日本各地でドキュメンタリー映画「シェーナウの想い」の上映会が開かれているが、本書を参考にするといっそう理解が深まる。ドイツのエネルギー政策や反原発運動の歴史にも触れており、末尾には同社の「原子力に反対する100個の十分な理由」がまとめられている。(オルタナ編集部=有馬めぐむ)
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