「まちや紳士録」、これはもうひとつの福島の物語だ。この映画は、福岡県八女市の福島地区に今も残る古い町並み、そしてそれを支える人々の姿を伝える。(文=美術・文化社会批評 アライ=ヒロユキ)(画像提供:グループ現代)
八女市はかつての繁栄を伝える町人の住まい町家が残るが、ここにも現代の地方疲弊は忍び寄っている。「重要伝統的建造物群保存地区」(重伝建地区)の指定、各種NPO立ち上げなどの取り組みはあるものの十全ではない。
本作は町並み保存の記録映画でもなければ、旅行者向けの外から見た美しいイメージ映像でもない。監督の伊藤有紀は2012年3月より夫婦でここに移住。生活者の目線で、町を守り日々のくらしを営む人々の息づかいが、夫婦の日常生活も織り交ぜて綴られていく。
木造の古い町家が立ち並ぶ街路は、春、梅雨と季節により変化を見せる。街路の奥の福島八幡宮で演じられる伝統芸能の燈籠人形も町の風物詩だ。これらは丹念に追うのではなく、生活の中の点景といったふうだ。