「バリューチェーンのCSV」による農業の再生【世界を変えるCSV戦略】

日本の農業再生への貢献

この「サプライヤーの育成」は、日本の農業の抱える問題を解決するためにも有効な考え方です。

日本の農家の平均年齢は66歳に達し、後継者も不足しており、将来が危ぶまれる状況です。農家に後継者が現れない大きな理由の一つが経営の不安定さにあります。余りにも経営の見通しが立ちにくいため、農業に関心を持つ若者は沢山いるにもかかわらず、なかなか職業として選択できない状況にあります。

企業による「サプライヤーの育成」は、この農家の経営の不安定さを解消し、農業に若者を引き付けることができます。

例えば、モスフードサービスは、契約農家に対し、種を撒く前に買う量と値段を約束しています。ハンバーガーに使うレタスは、市場価格が1kg90~350 円と大きく揺れ動いているため、野菜農家は、なかなか経営の見通しを立てるのが難しい状況にあります。しかし、調達価格が予め決められているモスの契約農家は、相場を気にすることなく、先を見通せるため安心して規模を拡大できます。こうした取り組みが若者を引き付け、モスの契約農家は20-30代が中心となっており、売上も安定的に伸びています。

「お~いお茶」で知られる伊藤園は、高齢化や後継者不足が深刻化している茶生産農家への栽培技術の提供や茶葉の全量買取により、茶生産農家の経営安定につなげています。これにより、伊藤園は、茶葉の安定調達、品質向上を実現しています。

食品メーカーや流通事業者が、自社事業と関連の深い農作物を栽培している農家を支援することにより、高品質原料の安定調達を実現し、それが企業の競争力や新しい市場の創造につながるという可能性はもっとあるのではないかと思います。企業による「サプライヤーの育成」が広く行われるようになれば、日本の農業が抱える問題を大きく改善することが可能ではないでしょうか。

【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第5号(2013年2月5日発行)から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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