機関投資家向け企業報告の新たなる地平[中畑 陽一]

確かに読まない投資家層も存在する事は確かですが、自社を理解してくれる投資家による長期投資を呼び込みたいのであれば、それにふさわしいアニュアルレポートを作成する必要があるのではないでしょうか。そのためには、すでに開示されている情報を翻訳して表紙と色・写真をつけただけではあまり作る意味がないでしょう。

では、どのようなものをつくっていけばいいのでしょうか。

■ ARに課せられた新しい役割

これについては、企業価値あるいは企業情報開示の新しい在り方についての議論が活発になってきており、ヒントになります。まず、日本においては日本再興戦略によって日本版スチュワードシップ・コード(http://www.fsa.go.jp/news/25/singi/20140227-2/04.pdf)やコーポレート・ガバナンスコード(http://www.fsa.go.jp/singi/corporategovernance/)が策定され、昨年8月伊藤レポート(http://goo.gl/vpn6lu)(伊藤邦雄 一橋大学大学院教授)においても企業と投資家のコミュニケーションの在り方を中長期投資へ変革していくべきとの主張が具体化されています。

そのためには、企業はステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、ビジョンや長期目標を明確にし、その達成のためのガバナンスを確立し、投資家から預かった資本のコストを理解し、継続的に利益を創出、還元していく姿勢が求められています。

投資家とのコミュニケーションとともに、そうした市場と社会のニーズにも応えていく経営と開示が求められていると考えることができるでしょう。そうしたこれからの健全な企業と市場のコミュニケーションに資するエンゲージメント(目的をもった対話)を深めるための中心となるツールがARであると考えられます。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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