製薬および医療機器企業のCSV【世界を変えるCSV戦略】

「b. 事業プロセス(バリューチェーン)のCSV」について、途上国の医療事業を改善しつつ、自社のバリューチェーンを強化する取り組みとしては、以下があります。

b1:地元研究機関や他社などと協働したR&Dによるコストとリスクの軽減
b2:地元での生産やサプライチェーン構築によるコスト削減
b3:現地の市場浸透や患者ニーズに適した販売チャネルの構築

b1については、ファイザーとGSKが共同で企業を設立し、HIV薬を開発している例など、b2については、バイオ製薬企業のギリアド・サイエンシズが、HIV薬成分の生産をインドの12社にライセンスし、供給リスク軽減と競争を通じたコスト削減を実現している例など、b3については、アボットが、インドの小都市や地方市場に浸透するため、地元で販売員を採用・育成している例などがあります。
 
「c. ビジネス環境(クラスター)のCSV」について、途上国の医療事情改善の障害となっている社会的課題に対応しつつ、自社のビジネス環境(クラスター)を整備する取り組みとしては、以下があります。

c1:疾病などの啓発活動を通じた医療ニーズの創出
c2:医療サービスの提供に必要な仕組みやチャネルの構築・強化
c3:政策や規制などの強化を通じた医療ニーズの創出
 
これらについては、ノボ・ノルディスクが、糖尿病薬を中国市場で展開するに当たって、患者や医療従事者の啓発活動(c1)、医療従事者のトレーニング(c2)、中国政府などと協働した治療方法ガイドラインの策定(c3)を行っています。
 
ノボ以外にも、イーライリリーがインドで糖尿病啓発活動を実施、アストラゼネカがケニアで医療従事者に乳がん治療のためのトレーニングを実施するなど、各企業のグローバル戦略に応じて、様々な活動が行われています。

FSGのレポートでは、これらCSVを実践するための5つの原則として、「CEOとローカルレベルでのリーダーシップ」「イノベーションと学習の風土と仕組み」「社会価値と企業価値の関係を測定するアプローチ」「CSVに適したスキルの育成」「新しいパートナーシップ」を挙げています。
 
そして、途上国が製薬企業にとっての新しい成長市場になるとの前提で、「CSVの意義を適切にステークホルダーに伝えること」「新市場のノウハウを獲得しシェアすること」「他業界に先んじて社会価値と企業価値の両立を測定すること」「早く動いてファースト・ムーバー・アドバンテージを獲得すること」という企業へのレコメンデーションで締めくくられています。

【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。ブログ「CSV/シェアード・バリュー経営論」共著『CSV 経営』(NTT 出版)

(この記事は、株式会社オルタナが2014年8月5日に発行した「CSRmonthly 第23号」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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