記事のポイント
- NGOなど153団体が石破首相らにアラスカLNG事業への不参加を求めた
- 事業は採算性がなく、日本の公的支援がなければ成り立たない
- 153団体は、脱炭素を停滞させないためにも協力を拒否すべきと強調する
約20ヵ国・地域の環境NGOなど153団体は5月29日、石破茂首相らに公開書簡を送り、トランプ米大統領がアラスカで進めようするLNG(液化天然ガス)プロジェクトへの不参加を求めた。同事業は日本の公的支援がなければ成り立たず、世界的な脱炭素・脱化石燃料の流れを停滞させないためにも協力を拒否すべきと、153団体は強調する。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■LNG事業への投資が関税交渉の材料に
アラスカLNG事業は同州北部のノーススロープで採掘した天然ガスを約1300kmのパイプラインで輸送し、アジアへ輸出するもの。操業開始は早くて2030年以降と目される。
日米両政府は2月の首脳会談で、米国産LNGの輸入拡大に合意した。アラスカLNG事業の総事業費は440億米ドル(約6兆円)に上ると見積もられ、トランプ大統領は事業への投資を関税交渉の取引材料にする意向だ。
公開書簡は、6月2日からアラスカで開かれるエネルギー会合に日本や韓国が参加するという報道を受けて作成。日米欧、アジア、アフリカなど約20ヵ国・地域の環境NGOら153団体が連名で、石破首相、武藤容治経産大臣、赤澤亮正経済再生相、JBIC(国際協力銀行)、メガバンク3行などに送った。
書簡の要旨は以下の通りだ。
・日本や韓国の企業はアラスカLNG事業の経済合理性に強い疑問を示し、参加を拒んでいる。事業は日本の公的資金に依存する可能性が高く、公的資金支援がなければ前進しない。
・日本はLNG供給過剰の問題を抱えており、すでに日本企業が取り扱うLNGの約40%が海外に転売されている。事業に参加すれば、再エネという選択肢があるにもかかわらず高額なガスを数十年にわたって購入する契約に縛られることになる。
・アラスカLNG事業では、年間5000万トンを超えるCO2排出量が見込まれる。パリ協定1.5℃目標の達成には、新たなLNG事業を開発する余地はない。
・採掘予定地にはホッキョクグマを含む野生生物が生息し、先住民族の居住地もあり、北極圏野生生物保護区(ANWR)にも近い。同地域での採掘は人権侵害や環境破壊のリスクを伴う。
■「トランプを満足させるだけ」の事業
各団体は、以下のようにコメントした。
「新規LNG事業を始めること自体が極めて不適切な決断。気候変動を危機的水準まで悪化させ、アラスカの先住民族の生活や生物多様性を破壊してしまう。このような事業に日本の公的資金を投入する理由が、決して満足することのない大統領を満足させるためだけであるとすれば、国民は納得しない」(国際環境NGO FoE Japanの長田大輝キャンペーナー)
「日本が過剰に仕入れたLNGを転売するためにアジア市場への拡大を図っているという事実を踏まえると、日本によるLNGインフラへの継続的な投資はアジアの地域社会をより深刻な気候リスクと経済的不安定に晒すことになる」(APMDDのリディ・ナクピル・コーディネーター)
「日本の指導者たちは、経済性に乏しくリスクの高い米国のLNG事業への投資を強要しようとするトランプ氏の圧力に、毅然と抵抗すべき」(オイル・チェンジ・インターナショナルのアリー・ローゼンブルース・U.S.キャンペーンマネージャー)
オルタナで既報の通り、米国のLNG事業は気候変動や人権侵害などさまざまな問題が指摘されており、そこに資金を投じる日本の姿勢も問われている。
参考記事)米LNG事業に最多資金投じる日本:環境NGOなど撤退求める
公開書簡の全文・153団体の一覧はこちらから