通用しない水産庁の論理「ニホンウナギに絶滅の恐れはない」

記事のポイント


  1. EUが提案したニホンウナギの国際取引規制案に、水産庁は反発している
  2. 水産庁の論理は「ニホンウナギに絶滅の恐れはない」とするものだ
  3. しかしニホンウナギは、レッドリストで「絶滅の危機」にあると分類されている

EUが提案したニホンウナギの国際取引規制案に、水産庁は反発している。ニホンウナギは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストや、それに準拠した環境省の日本レッドリストで「絶滅の危機」にあると分類される。水産庁は、「ニホンウナギに絶滅の恐れはない」と主張するが、そこには、長くグローバルスタンダードを無視し、「国内業界ファースト」とも言える内向きの水産政策を続けてきた姿勢が表れている。(オルタナ論説委員=井田徹治)

日本で主に食されるニホンウナギだけではなく、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギも国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されている(画像はイメージ)
ニホンウナギは国際自然保護連合(IUCN)によって
絶滅危惧種に指定されている

欧州連合(EU)は今年11月から12月にかけてウズベキスタンで開かれるワシントン条約の締約国会議に、ニホンウナギやアメリカウナギを含むウナギ類16種類を条約の付属書2に掲載し、国際取引にあたっては輸出国の許可証の発行を義務付けることを正式に提案した。

参考記事:取り放題続くニホンウナギ、EUはワシントン条約規制に動く

日本政府はこれに強く反発し、会議で賛成をしないように各国の大使館を通じて働きかけるといった動きを強めている。

■水産庁は未発表の論文に依拠して反論する

水産庁の担当者のブリーフィングを受けたのだろうか、小泉進次郎農水大臣は6月27日の記者会見で「ニホンウナギについては、国内および日中韓、台湾の四カ国・地域で保存管理を徹底しており、十分な資源量が確保されていることから、国際取引による絶滅の恐れはありません」と明言した。

水産庁が記者クラブの記者に対して行ったこの問題に関する「説明会」の資料にも「ニホンウナギは十分な資源量が確保され、絶滅のおそれはない」と赤字で明記されていた。  

ここでは「1990年以降、ニホンウナギの資源は回復傾向にある」とする論文と「絶滅リスクは無視できる水準でIUCNの絶滅基準を満たさない」とする日本人研究者による二つの論文まで紹介されているが、いずれも未発表で検証のしようがない。

■レッドリストは絶滅の「危機」にあると示す

水産庁が言及したのは国際自然保護連合(IUCN)による絶滅危惧種リスト「レッドリスト」のようだが、このリストに対する国際的な信頼度は非常に高い。

レッドリストでは、科学的なクライテリアに基づいて絶滅リスクをその深刻度に応じて、近い将来の絶滅の危険が極めて高い「深刻な危機(CR)」、近い将来の絶滅の危険が高い「危機(EN)」、絶滅の危険度が上昇している「危急(VU)」の3段階に分類している。

クライテリアにはA~Eまでの5種類があり、例えばA基準(個体数の減少率)なら、「過去10年間か3世代のどちらか短い方の期間の個体数の減少率が80%ならCR、50%ならEN、30%ならVU」といった具合に使われる。

五つの基準のうち、一つでも合致していれば絶滅危惧種とされるし、ある基準でCR、別の基準でVUと評価された場合は、リスクの高い方を取ってCRとするといった「予防原則」の考え方も取り入れられている。

ニホンウナギはA基準に基づいてENとされている。日本の環境省もIUCNの手法に準拠して作製する日本のレッドリストの中で、ニホンウナギをIUCNと同じ「EN」としている。

■水産庁は「レッドリスト」の原則を曲解する
■国際基準を無視した内向き姿勢の表れ

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ida_tetsuji

井田 徹治(共同通信社編集委員兼論説委員/オルタナ論説委員)

記者(共同通信社)。1959年、東京生まれ。東京 大学文学部卒。現在、共同通信社編集委員兼論説委員。環境と開発、エネルギーな どの問題を長く取材。著書に『ウナギ 地球 環境を語る魚』(岩波新書)など。2020年8月からオルタナ論説委員。

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