米テキサスの大洪水、気候危機への意識醸成が復興の鍵を握る

記事のポイント


  1. 2025年7月の米テキサスの洪水では、子ども37人を含む135人以上が死亡した
  2. トランプ政権下の人員・予算削減と防災システムの不備が被害拡大を招いた
  3. 気候変動に対する危機意識の醸成が被災地域の復興と防災システム整備の鍵を握る

2025年7月4日未明、米テキサス州中部を集中豪雨による洪水が襲い、子ども37人を含む135人以上が死亡した。被害の背景には、人間活動による地球温暖化が寄与した豪雨の激しさだけでなく、連邦と州レベルの防災体制の不備や、地域社会の政治的事情がある。気候変動に対する危機意識の高まりが防災システム強化の鍵になりそうだ。(米テキサス州=宮島謙二)

2025年7月のテキサス州の大洪水では
子ども37人を含む135人が死亡した

■トランプ政権の人員削減が初動の遅れに

今回の洪水被害には、米連邦緊急事態管理庁(FEMA)と米海洋大気庁(NOAA)の人員削減が影響したと指摘される。第二次トランプ政権誕生後、FEMAは職員の約2割を削減し、10万ドル(約147億円)超の支出に国土安全保障省長官による承認を義務付けた。

このため、救助チームの現地入りが洪水発生から72時間後となり、初動が遅れた。米国立気象局の支局では、地域の当局者と連絡を取り合う要職などが空席だったことも批判されている。指揮系統の乱れから警報発令が90分遅れる地域が出るなど、避難が間に合わない例が相次いだ。

■政治と企業が防災システムの整備を阻む

警報システムの整備が遅れたことも被害を拡大させた。洪水被害の中心地・カー郡には、州緊急事態管理局に補助金を却下された過去がある。2021年には、バイデン政権への政治的な反発から、一時金は防災以外の用途に回された。

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州の予算や地元住民の反対などの事情が重なって、屋外の警報サイレンは未整備のままだった。洪水を起こしたグアダルーペ川の流域管理当局も、水位計の設置計画を断念した。予算や技術があっても、政治と企業の思惑が整備を阻んできた経緯がある。

子どもとスタッフを合わせて27人が死亡した「キャンプ・ミスティック」は、洪水リスクが高い地域であるにもかかわらず、FEMAが川沿いの30棟を洪水域から除外していた。所有者から申し立てを受けたためだ。

非営利研究組織のファーストストリート財団によると、FEMAの洪水マップは、75%が古い情報に依存している。利害関係のある業界によるロビー活動の影響で、連邦議会が予算を承認しないことが要因だ。進まない規制や保険の義務化が、洪水リスクが高い地域での施設や住居の建設を可能にしていた。

■防災強化は気候リスク軽視を改めることから

被災したカー郡は、昨年の大統領選でトランプ氏が77%を得票した保守的な地域だ。当局や支持者の一部は政権対応を称賛した。一方、警告なく洪水に見舞われたとして防災対策の不足やFEMAの対応を批判する声も多い。

また、強硬な移民政策の下、移民であることを理由に公的支援をためらう被災者が取り残される実態も明らかになった。

保守的なテキサスは気象災害と気候変動との関連に否定的な意見も多いが、気象災害の被害者には意識の変化が見られる傾向にある。気候変動を否定するトランプ政権下における気候変動に対する危機意識の醸成が、防災システム強化の鍵になりそうだ。

専門家は、防災体制の弱体化と気候リスク軽視が重なれば、同様の悲劇は再び起こると警告する。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #気候変動

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