キリンHD常務「26年は企業も投資家もサステナ回帰へ」

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記事のポイント


  1. 2025年は米国や欧州でESGの「揺り戻し」が起き、企業にも不安が広がった
  2. だが、CSVの元祖キリンは「26年はサステナビリティに回帰する」と予測
  3. 同社はESGの「揺り戻しの揺り戻し」に備え、公平な競争環境づくりに取り組む

2025年は米国や欧州でESGの「揺り戻し」が起きた。だが、キリンホールディングスのCSV(共通価値の創造)戦略を統括する藤川宏・常務執行役員は「26年は、企業も投資家もサステナ経営に回帰する」と言い切った。同社はESGの「揺り戻しの揺り戻し」が起きる状況に備え、公平な競争環境づくりに取り組む。(聞き手=オルタナ輪番編集長・池田真隆)

キリンHDの藤川常務執行役員は、脱炭素と成長の両立には公平な競争条件が欠かせないと強調した 
写真:廣瀬真也

――2026年のサステナ経営のトレンドをどう見ていますか。

25年前半は米国でのESGバックラッシュが報道され、企業にも不安が広がりました。しかし現在は「やはり持続可能性に向き合うべきだ」という方向に戻りつつあります。

ESG投資残高も底堅く、一時的な「揺り戻し」はあっても、長期的なトレンドは揺らがない。企業も投資家も、持続可能性を前提とした経営に回帰する。それが26年の大きな潮流になると見ています。

日本でもSSBJ基準の開示や排出量取引制度が本格化します。

公平な競争環境、循環の土台に

――25年10月にはキリンやユニ・チャームなど8社と水平リサイクルなど「高度な資源循環」の拡大を目指して、環境省に法改正を訴えました。

提言では、欧州が環境政策に取り入れている「ボーナス・マルス」の仕組みの導入を提案しました。ボーナス・マルスとは、取り組んだ企業に対しては、ボーナス(インセンティブ)を、取り組まない企業には、マルス(課金など)を課す考え方です。

この背景には、資源循環に取り組むことでコスト増や手続き上の負担が増す状況があります。そのため、たとえば使用済みペットボトル容器をサーマル処理ではなく、水平リサイクルといった高度な資源循環に取り組む企業に対しては経済的なインセンティブや遵守コストの軽減を求めたのです。

国際プラスチック条約の議論は想定より遅れ、世界全体でのコンセンサスを形成するには難しい局面が続いています。その一方で再生素材の価格は乱高下し、依然としてバージン素材より高い状況にある。

せっかく努力しても、コスト面の逆風で不利になるのは望ましい姿ではありません。だからこそ、公平な競争条件を整える制度設計に向け、企業として声を上げるべきだと判断しました。

――リサイクル素材を使うと、実際どれほどコストが変わりますか。

相場によって上下しますが、当社の規模でも数億円単位で影響が出ます。仮にペットボトル容器をすべてリサイクル素材に切り替えると、二桁億円規模の負担になるケースもあります。

これは大手メーカー全体に当てはまる話で、全社が本気で取り組めば「社会全体としてどのくらいコストを吸収できるのか」という、より大きな議論が必要になってきます。

――上がったコストを商品価格に転嫁する議論は社内でありましたか。

飲料の価格は、原材料費だけでなく物流費や人件費、エネルギー価格などさまざまな要素に左右されます。そのため「リサイクル素材にしたから値上げです」と単純に説明できるものではありません。

消費者が少しでも環境配慮に関心を持っているからこそ、なるべく価格を上げずに実行したいという思いがあります。とはいえコスト上昇は無視できないため、継続性をどう担保するかは常に議論しています。

――今回の提言について、行政側の反応や手ごたえはどうですか。

正直、まだ道半ばです。国際的なルールづくりは、まず世界的な方向性ができ、それが各国の制度に落ちて、最終的に企業に影響が来るという流れが一般的です。しかし日本の場合、世界の議論を待っているだけでは遅れてしまいます。

ウクライナ情勢以降のインフレや円安も重なり、消費者が「安いほうへ」向かう傾向が強まっている。こうした逆風の中でも、努力している企業がきちんと報われ、競争条件が公平になるようなルール整備が急務だと考えています。

――環境配慮型の商品については、消費者には十分伝わっていると考えますか。

現時点では、十分に伝わっているとは言いがたい面があります。「環境のために選ぶ」という購買行動は、まだ一部の消費者に限られています。しかし芽が出始めているのも事実です。

たとえば神奈川県が実施しているCO₂削減プロジェクトの一環で、「生茶」にCO2削減率を示す「デカボスコア」を表示したところ、売れ行きが明確に伸びました。ポイント付与の効果もありますが、「普段と同じ価格なら、少しでも環境に良いほうを選びたい」という意識が働いています。

ファンケルの店頭でも、環境面の取り組みをきちんと説明すると、売り上げが2割伸びた例があります。消費者は「知れば選ぶ」段階に来ている。伝え方を工夫する余地は大きいと感じています。

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M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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