JAL常務が語る地方創生、「関係・つながり」がキーワードに

記事のポイント


  1. 日本航空は非財務指標「関係・つながり総量」を掲げ、社会・経済価値の創出を図る
  2. 「関係・つながり」づくりに、日本各地の魅力を発掘・発信し、地方創生につなげる
  3. 居場所やつながりの多さは、ウェルビーイングの向上にもつながる

日本航空は、2010年の経営破綻やコロナ禍の危機を経て、「移動」を超えた価値の創出に挑む。ESG戦略を最上位の戦略に位置付け、創出価値の中心に「関係・つながり総量」という非財務指標を据える。JALが目指す価値の創出について、越智健一郎・常務執行役員に話を聞いた。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

日本航空常務執行役員・ソリューション営業本部長 越智健一郎(おち・けんいちろう)
1989年、日本航空入社。2017年国内路線事業部長を経て、2019年より日本航空執行役員に就任。同年6月に日本エアコミューター代表取締役社長となり、2022年4月から常務執行役員を務める。

――JALのマテリアリティ(重要課題)を見ると、当初は航空事業に限定していたのが、最近では非航空事業も包括する形となっています。この変化の背景を教えてください。

(越智)やはり大きかったのはコロナ禍の影響です。

これまで、国際線が社会情勢の影響を受けることはありましたが、国内線も含めてお客様が全く飛行機をお使いになられず、移動が止まったという状況は初めてでした。航空事業を中心に取り組んできた当社にとって、これはかなり大きな出来事でした。

私は当時、鹿児島で勤務していました。お盆やお正月など、定期的に家族に会いに帰省するという、昔ながらの文化の良さも見られる土地です。しかし移動が制限される中で、そうした行動も止まってしまいました。

そのような状況の中で感じたのは、「移動」は単なる手段ではなく、実は「関係・つながり」という極めて大きな価値を生み出していたということでした。コロナによって、私たちの生み出す価値について、視点や発想が変わりました。

社会課題の解決に当たり、それに伴って発展していこうと、2023年にソリューション営業本部を立ち上げました。以来、当社は「移動」を通じた「関係・つながり」を生む会社になることを目指しています。目標を定め、進捗を測る指標が「関係・つながり総量」です。

JALの描く未来像の中心には「つながり」がある

■非財務指標で経済価値を高める

――「関係・つながり総量」の考え方を教えてください。また「関係・つながり総量」を拡大することが、どのような価値を生み出すのでしょうか。

(越智)「関係・つながり総量」は、関係人口と、地域との関わり度とのかけ算です。

当社では関係人口を、「帰省や業務出張を含み、地域を1年間に複数回訪れる、地域と継続的かつ多様な関わりを持つ人」と定義しています。1年に2回以上、同一地点に航空移動した人の数を搭乗データに基づいて算出します。

その関係人口が、同一地点に何回行ったかを、今度は「地域との関わり度」としてカウントし、そのかけ算を「関係・つながり総量」としています。

2023年の720万人・回から、2030年には1.5倍の1080万人・回とする目標を掲げています。定量目標の達成を目指すことで、航空事業では経済価値を高め、「関係・つながり」でお客様のウェルビーイング向上にも寄与し、そして地域の創生・活性化を通じて社会課題の解決につなげていきます。

2030年に「関係・つながり総量」を2023年比で1.5倍にする

地域との縁が生まれるきっかけは多様です。私の出身は兵庫県ですが、仕事を通じて転勤・単身赴任などで鹿児島とのご縁ができ、今では鹿児島への愛着も強くあります。 またアニメが好きで、アニメの聖地を訪れたことをきっかけに、その地の人や食と触れ、単なる旅行・観光で終わらずに、地域の魅力に惹かれて関係人口になられる方もいます。

■日本各地の魅力を発掘し発信する

――「関係・つながり総量」の拡大を図りながら、社会課題の解決にも寄与していかれるということですね。

(越智)はい。地域に興味をお持ちいただけるかどうか。そのきっかけづくりの一つとして、2024年8月には「旅アカデミー」という取り組みを開始しました。従来の観光ツアーと異なるのは、より豊かな人生につながるヒントとなるテーマを設けていることです。

例えば「ワイン」がテーマなら、ワインに知見のある方を講師としたセミナーを開催し、参加者に学びを深めていただいた上で、実際にワイナリーを訪問したり、収穫や作る工程を体験いただいたりして、その地点との関わりが深くなるきっかけをご提供しています。

ほかにも香川・三豊市では、「地域創生」という社会課題をテーマに地域ビジネスやイノベーションの創出を学んだり、「離島」をテーマに、サステナブルな地域づくりに取り組む鹿児島・与論島などを中心に、島特有の課題解決の取り組みから島の持続的な発展を考えたりと、若者や年配の方に限らず、幅広い世代の方々にお集まりいただいています。

「旅アカデミー」一つをとっても、いろいろな年齢層の方が、社会課題を認識し、解決されたいという意志をお持ちだということを感じます。また、人口減少の課題は地方で先行して顕在化していますので、そこに対しても「関係・つながり総量」を増やすことで、課題解消に貢献できればと考えています。

旅アカデミーは、現時点では、国内のお客様を対象に、日本国内に限らず海外も含めた訪問先をご用意していますが、将来的には、インバウンドで来られ日本に魅力を感じてくださる海外のお客様向けの提供も考えていきます。

■サステナブルツーリズムの浸透にも注力する
■施策が奏功し、若年層の関係人口は増えた
■「二地域居住」の実証事業にも挑む
■居場所やつながりの多さは幸福度に

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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