中国が再エネを加速中、気候変動対策だけではない4つの目的

記事のポイント


  1. 中国の習近平国家主席は9月、2035年までの気候変動に関する国家目標を発表した
  2. 気候変動を否定する米トランプ政権とは異なり、中国は気候変動に積極的に映る
  3. 中国の積極姿勢の裏には、純粋な「気候変動対策」とは異なる4つの目的がある

中国の習近平国家主席は2025年9月、2035年までの気候変動に関する国家目標を発表した。その前日に、米トランプ大統領が気候変動を「世界史上最大の詐欺行為」と否定しただけに、中国の姿勢は、米政権とは対照的に、気候変動対策に積極的のように映る。中国が再エネの導入を急拡大に進めてきた背景には、純粋な「気候変動対策」以上に、中国を利する4つの目的がある。(オルタナ客員論説委員/技術士・財部明郎)

再エネ導入を加速する中国には、気候変動だけではない4つの目的がある

■気候変動対策に米国は否定的、中国は積極的

2025年9月。米国のトランプ大統領が国連で行った演説の中で、彼が述べた気候変動対策は驚くほど保守的、というよりむしろ真っ向から否定するものだった。大統領は気候変動について「世界史上最大の詐欺行為」「自国に莫大な費用をかけた愚かな人々によって作られたもの」「この環境詐欺から逃れなければ、あなたの国は破滅する」とまで述べている。

これに対して、その翌日に国連本部で開催された気候サミットで中国の習近平国家主席が行ったビデオ演説は、トランプ演説とはまったく異なる対照的なものだった。主席は2035年までに中国の非化石エネルギー比率を30%以上に高めることや、風力発電、太陽光発電など再エネ発電の設備容量を36億kWに拡大すると説明。これによって中国の温室効果ガス(GHG)排出量をピーク時から7~10%削減するという新たな国家目標を発表した。

トランプ大統領の意図は明確である。気候変動への対策費用を削減したいということ。および国内で産出するシェールオイルや石炭など国内資源を活用したいということ。だから気候変動は嘘だと決めつけ、対策は不要だと断言した。では、中国は本当に気候変動対策に積極的なのだろうか。

もちろん中国一国で世界の温室効果ガス排出量の約3割を占めているという負い目があるのかもしれないが、中国が再エネの導入に積極的なのはそれだけではない。実はほかの大きな目的があるのだ。

■中国は化石燃料の輸入コストを大幅に減らした

それは何か、以下にやや見慣れない図を掲げた。この図は今年発表されたIRENA(国際再生可能エネルギー機関)の報告書に掲載されたものであるが、この図がその答えのカギのひとつとなるだろう。

2024年2024年に再生可能エネルギー発電により回避された化石燃料コスト(国別)
出典:IRENA ”Renewable Power Generation Costs in 2024"

この図は、2024年1年間に再エネ発電によって、どれだけ化石燃料のコストを削減できたかという数字を国別に示したものである。つまり、簡単に言えば火力発電を再エネ発電に切り替えることによって、どれだけ儲かったかという数字を面積で表したものである。単位は10億ドルだ。

この図で衝撃的なのは全体の約半分という巨大な面積を中国一国が占めていることだ。つづいてブラジル、米国、日本、ドイツと続くが、中国以外のすべての面積を足し合わせて、ようやく中国とほぼ同等の面積となる。

これが、中国が再エネ導入に熱心な理由のひとつだ。つまり再エネは儲かるということだ。再エネを導入することによって、結果としてCO2排出量は減少していくから習主席が国連で示した新たなGHG削減目標につながってくるわけであるが、それだけが彼らの目的ではないだろう。

かれらが再エネを導入する目的はこのような経済性だけではない。さらに大気汚染対策、産業の育成、エネルギー安全保障なども再エネ推進の理由となっていると考えられる。

■再エネの経済性は年々高まっている

下の図に示すように、世界の太陽光や風力など再エネによる発電コストは年々減少している。

世界の再エネ発電コストの推移

例えば、太陽光発電コストは2024年には世界の加重平均で1kWhあたり 0.043ドル(約6.68円)で、これは15年前の約10分の1まで下がっている。この結果、太陽光発電コストは化石燃料を使った火力発電より41%も安くなっている。さらに中国の太陽光発電コストは0.033ドル(約5.12円)と世界平均よりもっと安い。

また風力発電の世界平均コストは太陽光発電よりも低く、1kWhあたり0.034ドル(約5.28円)。中国の風力発電コストはさらに低くて0.029ドル(約4.50円)である。

このように従来は割高と考えられた再エネ発電であるが、現在、その発電単価だけをみると火力発電よりはるかに安価となっており、火力発電をやめて再エネ発電を導入すれば、その国の発電コストは下がっていく。

実際、中国の再エネ発電の導入には目を見張るものがある。2024年の世界の太陽光発電の設備容量は452.1GW増加しているが、このうちの61.2%が中国によるものだった。また、風力発電については世界で114.3GW増加し、このうち69.4% が中国によるものであった。

ちなみに中国は現在、世界最大の再エネ発電国であり、その発電量は世界第2位の米国の約3倍、世界第7位である日本の約11倍に達している。

火力発電で電気を作れば、もちろんその燃料となる石炭や天然ガスを購入しなければならないが、一方太陽光や風力など多くの再エネ発電では燃料を購入する必要がない。つまり再エネ発電の多くは発電設備さえ建設してしまえば、あとは燃料という変動費をほとんど負担することなく発電を続けられるのだ。

この再エネで発電した電力のすべてを火力発電で作った場合、どのくらいの燃料購入費用がかかったか、逆にいえば再エネ発電でどのくらいの燃料コストの節約ができたかを示したものが冒頭に掲げた図というわけである。明らかに中国が世界で最も再エネ発電によって経済的恩恵を受けて国であることがわかるだろう。

■大気汚染対策として再エネ・EVに注力する
■圧倒的シェアを誇る産業を育成し外貨を稼ぐ
■石油依存からの脱却でエネルギー安全保障を強固に
■日本はどうすべきか

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財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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キーワード: #再エネ#脱炭素

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