異常気象から極端気象へ❸イランの首都が危機的な干ばつに

記事のポイント


  1. イランの首都テヘランが危機的な干ばつに見舞われている
  2. 秋に雨季に入るが、9月末以降、国土の大部分では一滴も雨が降っていない
  3. 首都に住む約1000万人が、計画的な断水や水道圧の急激な低下に直面している

イランが危機的な干ばつに見舞われている。イランでは例年、秋から雨季に入るが、2025年9月末以降、同国の大部分では一滴も雨が降っていない。首都テヘランに暮らす約1000万人の市民は、計画的な断水、水圧制限、洗濯制限に直面し、水資源が枯渇する恐怖に見舞われている。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

イランの首都テヘランが危機的な干ばつに見舞われている

■イラン首都に迫る水危機

2025年11月、イランの首都テヘラン市の水道局は、今後数週間で飲料水が尽きる可能性があると警告した。同国ペゼシュキアン大統領も、このまま首都テヘランに雨が降らなければ、一部の市民を避難させる必要があると発表した。

テヘランでは、11月下旬から12月上旬にかけて、降雨量が過去の平均と比べて約90%少なかった。テヘランに水を供給する貯水池の容量も1割未満に低下した。

幸い、一時的にテヘラン周辺に雨が降ったことで、差し迫った状況は若干緩和されたが、市民は依然、計画断水、水圧制限、洗濯制限の要請に直面している。

「イランには、そもそも水資源が少ない。国の平均降水量は世界水準の約3分の1程度で、国土の約9割が乾燥・半乾燥地帯だ」と、地理の専門家で一般社団法人日本地域地理研究所(東京・日野)の瀧波一誠代表理事は、イランの地理的特性を説明する。

「イランの水不足問題は1980年代から続いてきた。深刻化した最大の原因は、水の使い過ぎという人為的な要因にある。しかし2020年以降、イランとその周辺地域は5年連続で干ばつが続いている。地球温暖化が干ばつを深刻化させているとの説が有力だ」(瀧波代表理事)

■「偏西風の蛇行が、極端気象をもたらす」と専門家

三重大学の立花義裕教授は、「一般的な話として、雨が降らないだけならば普通の干ばつだが、地球温暖化に伴って気温が上昇すると、地面からの水分蒸発量も増える。その結果、地面はより乾燥化し、干ばつがさらに激しいものになる」と、気候変動がもたらす影響を説明する。

立花教授によると、地球温暖化によって北極の海氷が急速に溶け始め、北極と赤道の温度の差が縮小してきた結果、北半球中緯度を流れる偏西風が、以前よりもスピードを落とし、大きく蛇行するようになったという。

そしてこの偏西風の蛇行が、「豪雨と干ばつ」「夏の酷暑と冬の豪雪」といった極端気象をもたらす原因だと指摘する。

寒気と暖気の境目に吹く偏西風は、南北の温度差が小さくなったことでスピードが落ち、蛇行するようになった
©三重大学・立花義裕教授

■大水害と干ばつが同時期に

イランで干ばつが深刻化した2025年11月から12月の同時期、東南アジアでは豪雨による大水害に見舞われた。イランと東南アジアとではもちろん、そもそもの気候帯が全く異なるが、「同時期に、豪雨と干ばつという逆方向の極端化が起きるのは、偏西風の激しい蛇行が直接的な原因」だと立花教授は話す。

「地球温暖化は、狭い範囲で局地的に、過去にないほどの豪雨を降らす一方、同時に、残りの広範囲には乾燥化をもたらす。大気中の水蒸気がある場所に集中すれば、それ以外の場所の水蒸気が減るからだ。日本でも2023年は、豪雨災害があった一方で、河口湖の水位が下がるなど、干ばつ現象も同時期に見られた」(立花教授)

■土壌劣化が、雨を水害に変える
■イランの水危機の本質は「水の使いすぎ」

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #気候変動

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