三菱UFJ銀行会長「三振しても良いから打席に立とう」

記事のポイント


  1. 三菱UFJ銀行の堀直樹会長が2026年春に退任することが決まった
  2. その堀会長は「減点主義」から「加点主義」への転換を目指してきた
  3. 後輩たちには、「打率よりも打数を評価できる銀行に」と呼び掛ける

三菱UFJ銀行の堀直樹会長が2026年春に退任することが決まった。CHRO(最高人事責任者)など、人事部門を長く務めた堀会長は「減点主義」から「加点主義」への転換を目指してきた。後輩たちには、「打率よりも打数を評価できる銀行に」と呼び掛ける。(聞き手・オルタナ創刊編集長=森 摂、輪番編集長=吉田広子、池田真隆)

堀会長は、30代のころに独身寮の寮長を務めた経験が、人に関心を持つきっかけになったという
(写真・高橋慎一) 

堀 直樹(ほり・なおき)
三菱UFJ銀行取締役会長
奈良県出身。1983年、三和銀行入行。三菱東京UFJ銀行で人事や法人業務などを担当。2019年に三菱UFJ銀行副頭取、21年から同行会長。

■世界の分断が進んだ中で、パーパス(存在意義)をつくった

――三菱UFJ銀行はいまや日本最大の金融機関となりました。どのような姿を目指していますか。

2005年10月に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)を設立してから20年が経ちました。合併や再編を経て、従業員数も増え、いまでは約15万人に上ります。三菱UFJ銀行も26年1月で20周年を迎えます。

私が入行した昭和時代とは異なり、若い世代が自らさまざまなことを考え、その発想を引き出していくことが、これからの企業カルチャーとして不可欠だと思っています。

2021年4月には、MUFGとしてのパーパス(存在意義)「世界が進むチカラになる。」を定めました。

足元、世界の分断が進んでいます。だからこそ、私たちは金融仲介という本来業務に立ち返りたい。「人と人」「企業と企業」「国と国」をつなぐ役割を果たさなければならない。こうした取り組みが、社会課題の解決につながると考えています。

「情報営業」のセクションを率い、500人の組織に

――銀行の役割として金融サービスはもちろん重要ですが、それを超えた大事なものがあるようにも感じます。

その通りです。融資をしたり、預金をお預かりしたりするのは、あくまで私たちが持っている「機能」を提供しているにすぎません。本当に大事なのは、銀行が持っている非常に多くの情報を提供するという点です。

私は以前「情報営業」という仕事をしていました。もう20年近く前のことですが、当時は50人ほどのチームを率いていました。こちらがいくら稼ぐかよりも、お客さまがより稼げるようにサポートすることを優先しました。お客さま本位で情報を提供することが、結果的に私たちの受益にもつながります。

M&A(企業の合併や買収)やIPO(新規株式公開)、ビジネスマッチング、事業承継などのチームを率いて、「情報で勝負する」組織を作りました。

当時は上層部と衝突することもままありましたが、今ではその組織は500人規模にまで成長しました。

融資を通じて得た知見やノウハウを行内に蓄積し、お客さまのサポートを行う。そこに、銀行の存在意義があるのではないかと思います。

――海外情報の重要性も、ますます高まっていますね。私たちが社会人になったころ、日本のGDPは世界の約10%と言われ、「日本経済に誇りを持て」と言われた時代でした。

日本経済は徐々に停滞し、国際的なプレゼンスも相対的に低下しました。こうした環境下、アジアやアフリカも含めた海外情報ネットワークの構築が非常に重要になっています。外国人材を積極的に採用するなど、さまざまな工夫をしながら進めています。

私は常に、世界経済全体の中で考えるようにしています。金融が果たす役割は決して不変ではない。時代とともに、どんどん変わっていくものです。

だからこそ、その「変わり方」を間違えないこと。どこを目指すのか、方向感を誤らない姿勢を持ち続けることが何より大事だと思っています。

若い行員には「三球ともバットを振ってこい」と話す

――企業文化についても、改めて問い直される時代に来ているのではないでしょうか。

そうですね。売り上げ規模や企業の大きさ、業種を問わず、「企業文化とは何か」「本当に中長期的な成長に資するものなのか」という視点が、これまで以上に強く意識されるようになっています。

一方で、超メガバンクであるがゆえの難しさもあります。正直なところ、何もしなくても、ある程度の実績は積み上がる。私たちは証券のようなフロービジネスではなく、ストックビジネスですから、失敗がすぐに表面化しにくい面もあります。

大企業に勤めると、どうしても安定志向になりがちです。だからこそ、よく「バッターボックスに立て」という話をしています。

バッターボックスには一人しか立てません。見送っても、空振りしても三振です。特に若い人には「三球ともバットを振ってこい」と伝えています。空振り三振は、チャレンジした証ですが、見送り三振は、ただ立っていただけだからです。何もしなければミスは起きませんが、成果も得られない。チャレンジなくして、個人の成長はありません。

もう一つよく伝えるのが、「打率より打数」という考え方です。どれだけ挑戦の数を積み重ねたかが、結果的に成長につながる。そうしたメッセージを繰り返し伝えています。

かつては「大企業になればなるほど減点主義に陥りやすい」とも言われてきました。失敗を避けることが優先され、新しい挑戦が評価されにくくなるという構造です。「やれ」と言われてやらされ、うまくいかなかった結果だけで減点される。これは若い人にとって、救いようがありません。

(この続きは)
■「三菱UFJ銀行を加点主義の行風に変えたかった」
■三菱UFJ銀行が「根回し」を廃止した真相は
■「短期的な数字に過度に縛られてはいけない」
■2021年4月に描いた「10年後の姿」をレビューしたい
■官民のコミュニケーションを、より一層深める

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森 摂(オルタナ代表取締役)

森 摂(オルタナ代表取締役)

株式会社オルタナ 代表取締役。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在も代表取締役。前オルタナ編集長(2006-2025)。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。武蔵野大学サステナビリティ研究所主任研究員。一般社団法人サステナ経営協会代表理事。日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員。公益財団法人小林製薬青い鳥財団理事

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キーワード: #サステナビリティ

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