記事のポイント
- トランプ大統領は先週、UNFCCCを含む66の国際機関からの脱退を宣言した
- 「近視眼的で、恥ずべき愚かな行為」「途方もないオウンゴール」と批判が相次ぐ
- 米国が不参加でも「ネットゼロへ向かう流れは逆転しない」との見方が大勢を占める
トランプ大統領は1月7日、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)を含む66の国際機関から米国を離脱する大統領令を発した。トランプ大統領の今回の決定には、米国内外から激しい批判が相次ぐ。気候変動交渉の専門家らの多くは、米国が不参加でも、世界的なネットゼロへの流れは逆転しない、との見方を示す。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

トランプ大統領は「もはや米国の利益に合致しない」とみなす66の国際機関からの離脱を宣言した。
これには、UNFCCC、気候科学の世界的権威であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)以外に、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国際自然保護連合(IUCN)、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES、生物多様性分野でのIPCCに相当)といった機関を含む。
UNFCCCは、米国以外の世界のすべての国々が批准していることから、米ニューヨーク・タイムズ紙は、今回の離脱は気候変動対策における「米国の孤立」を強固にするものだと報じた。
■「近視眼的で、恥ずべき愚かな行為」とAIAI
全米で史上最大規模の気候有志連合である「アメリカ・イズ・オール・イン」(AIAI)は7日、ジーナ・マッカーシー議長の声明を発表し、トランプ大統領の決定を「近視眼的で、恥ずべき愚かな行為」だと強く非難した。
AIAIには、マイクロソフトやウォルマートなどの米企業、カリフォルニア州やニューヨーク州などの州や市などの自治体、先住民族部族、教育・宗教・医療・文化機関など、5000を超える機関が参画する。その管轄領域は、全米人口の3分の2、米国GDPの74%を占める。
参照:米国の気候有志連合、「トランプ政権でも決して後戻りしない」
マッカーシー議長は、初代のホワイトハウス気候問題担当大統領補佐官であり、米国環境保護庁(EPA)の第13代長官を務めた人物だ。
マッカーシー議長は声明の中で、「AIAIは国際パートナーと連携し、エネルギーコストの削減と汚染の削減、そしてパリ協定で掲げた目標達成に引き続き取り組むことを誓う」とコメントした。そして、「子どもや孫世代のために正しいことを実行していく」こと、「クリーンエネルギーがもたらす健康・安全・経済面での多大な恩恵を、トランプ政権がアメリカ国民から奪うことは断固許さない」ことを強調した。
AIAIの共同議長を務めるカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、「州や都市、そして国際的な同盟国と協力し、エネルギーコストの削減、有毒汚染の削減、公衆衛生の保護に努め、クリーンエネルギーの未来がもたらす莫大な経済的・健康的恩恵をアメリカ国民が享受できるよう力を尽くす」とコメントした。
■「途方もないオウンゴール」「国際社会における自滅的行為」
UNFCCCのサイモン・スティル事務局長は、トランプ大統領の発表を受け、「途方もないオウンゴール(自滅行為)で、米国の安全保障と繁栄を損なう」との見方を示した。そして、この負担を強いられるのは米国市民と企業だ、と指摘した。
「再エネは化石燃料より安価になり続けている。気候災害が米国の農作物や米企業、インフラに与える打撃は年々深刻になっている。石油・石炭・ガスのボラティリティは、より多くの紛争や、地域の不安定さ、移住せざるを得ない状況を生み出している。そのような中での今回の決定は、米国の家計と企業に、エネルギー、食料、輸送、保険の面でこれまで以上に多くの負担をもたらすだろう」(スティル事務局長)
バイデン前政権で気候問題担当特使を務めたジョン・ケリー前国務長官は、今回の離脱が米国の国際的孤立をさらに深めると指摘する。ケリー氏は、「これは予想通りの展開だ。しかし、これが中国への贈り物であり、責任回避を望む国々や汚染者にとっての免罪符である事実は変わらない。これは国際社会における自滅的な行為だ」と声明を出した。
■気候変動の影響はトランプ自身にも及びかねない
トランプ大統領は、人類の直面する気候危機への対策に、一貫して背を向け続ける。しかし、気候変動の影響は、トランプ大統領自身にも及びかねない。
「トランプ大統領の私邸マール・ア・ラーゴが位置するフロリダ州のパームビーチ地域は、地球温暖化による海面上昇の影響を最も受けやすい地域の一つだ。米国はこの問題から免れることはできない」と、IPCCのジャン=パスカル・ヴァン・イペルゼレ元副議長は指摘する。
米国の気候研究機関クライメート・セントラルが1月8日に発表した調査結果によると、2025年に米国で発生した気候災害の損害額は1150億ドル(約18兆円)に上った。数十億ドル規模の大規模な気象災害は昨年23件発生し、2023年、2024年に次いで史上3番目に多かった。
20万人以上が避難を余儀なくされた昨年1月のロサンゼルスの山火事は、損害額が612億ドル(約9兆6000億円)と、米国史上最も甚大な山火事災害となった。春・夏シーズンには、テキサスでの洪水など、米国中部で激しい竜巻や嵐などの極端気象が集中発生した。
農家は害虫や干ばつ、洪水の影響を被り、米国の一部地域では住宅が保険適用外になりつつある。フロリダ州も保険会社の撤退が多い州の一つで、住民の保険料負担は年平均5838ドル(約92万円)と全米でもトップクラスだ。
■「ネットゼロへの流れは変わらない」が大筋の見方
今回のトランプ政権の動きについて、「米国の離脱によって国際的な気候変動への取り組みが崩壊することはない」と、グローバル気候交渉の専門家で英ケンブリッジ大学のジョアンナ・デプレッジ博士は英メディアにコメントした。
「世界はすでに脱炭素の未来に向けた道を大きく進んでいる。もし米国が10年前に離脱していたなら深刻な脅威となっただろうが、今日ではそうではない。中国やその他の再エネ大国がさらに主導権を強固にするだろう」(デプレッジ博士)
英カーディフ大学の地球環境政治学研究者のジェニファー・アラン博士も、「歴史的に見ても、米国は常に信頼できないパートナーだった。これはまた同じことの繰り返しだ」と、京都議定書やパリ協定への参画や離脱を繰り返してきた米国の歴史を振り返る。
天然資源保護協議会(NRDC)のジェイク・シュミッド氏も、英メディアに、「米国の不参加によって国連気候変動交渉の進展が鈍化することはない」との見方を示した。
米国が約22%を占めるUNFCCCの事務局予算に関しては、トランプ大統領は以前から、資金拠出を停止する意向を示してきた。それに対しては2025年1月、ブルームバーグの創業者マイケル・ブルームバーグ氏が個人で設立した慈善財団が、他の慈善団体とともに連邦政府の資金拠出停止の穴を埋めると約束している。

