「企業が自然破壊をすれば経済も破壊へ」と生物多様性報告書

記事のポイント


  1. 150超の政府が2月9日、IPBES「ビジネスと生物多様性」報告書に署名した
  2. IPBESとは、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォームだ
  3. 企業活動は自然を破壊しており、それは結果として経済の破壊につながると警告する

生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(IPBES)は2月9日、英マンチェスターで開催したIPBES第12回総会で、「ビジネスと生物多様性報告書」を承認した。IPBESは、気候変動に関する科学的知見をまとめるIPCCの「生物多様性版」とも言われる。報告書は、「企業活動は自然を破壊している」とし、「生物多様性の喪失は世界経済の破壊につながる」と警鐘を鳴らした。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

「ビジネスと生物多様性」報告書の作成には、先住民族の知見も取り込んだ

IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム)は、150以上の加盟国政府で構成する。2012年に各国政府によって設立され、地球の生物多様性・生態系の現状とそれらが人類にもたらす恩恵に関して、客観的な科学的評価を行い、重要な自然資産を保護し持続可能な形で利用するための手法や手段を提供する。

IPBESは、「生物多様性のためのIPCC」と形容される。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「1.5℃特別報告書」が、グローバルで気候変動対策を進める上での科学的な基盤となっているように、IPBESの報告書も、生物多様性に関する各国の政策立案の指針となる。

今回、世界の79人の専門家が3年間かけてIPBESの「ビジネスと生物多様性」報告書をまとめた。

同報告書は、生物多様性の喪失を食い止め、回復させる上で企業が中心的な役割を担うと指摘する。

しかし、「あらゆる企業は生物多様性に依存し、また、生物多様性に影響を与えている。世界経済の成長は、膨大な生物多様性の損失を代償として達成されてきた。この損失は今や、経済、金融安定、そして人間の福祉に対して重大かつ広範なシステム的リスクをもたらしている」と警告する。

そして、「持続不可能な経済活動と国内総生産(GDP)で測られる成長への偏重が、生物多様性の減少を促進する要因となっている」と指摘した。

■IPBES報告書の意義について有識者は

生物多様性の専門家であるレスポンスアビリティ(京都市)の足立直樹代表は、「今回のIPBES報告書は、企業と生物多様性の関係を科学が初めて評価したものという意味で、極めて画期的だ」とオルタナにコメントした。

「生物多様性の危機が個々の企業の問題にとどまらず、現在の経済システムの構造そのものに起因していることを明確に示した点に注目すべき」だと話す。

「同時に、企業は問題の原因であるだけでなく、解決の主体でもあることが科学的に位置づけられた。その際、企業の責任は単体の事業活動ではなく、サプライチェーンや投資ポートフォリオを含めて評価されるべきだとしている」(同)

「これは、自然の回復と経済の利益が両立するよう、経済の仕組みそのものを再設計する必要があることを示唆しており、今後の企業経営と経済のあり方に大きな転換を迫るものと言える」(同)

■動植物の8分の1が絶滅の危機に瀕する

IPBESによると、世界で推定800万種ある動植物の8分の1が絶滅の危機に瀕しているという。また地球の陸地の約75%は、すでに人間活動によって大きく変化した。

評価報告書の3人の共同議長のうちの1人、マット・ジョーンズ氏は、「企業やその他の主要な主体は、より持続可能な世界経済への道を主導するか、あるいは最終的には絶滅の危機に瀕するかのいずれかだ。自然界の生物種だけでない。おそらく自らの存続も危うくなるだろう」と警鐘を鳴らした。

IPBES評価報告者の共同議長の1人、マット・ジョーンズ氏

■これまでの企業の慣行が自然の衰退を招いた

報告書は、企業のこれまでのインセンティブが、生物多様性の喪失を逆転させるのに必要な変革を阻んでいると指摘する。

物質消費を絶えず増加させるビジネスモデルのほか、四半期や年次での収益報告など、生態学的サイクルに比べて短いタイムスケールの中で投資などの意思決定をしてきたという時間的制約も、世界中の自然の劣化に寄与した、と分析する。

これらの慣行は「生物多様性を一般的に無視または過小評価し、企業の行動と生物多様性の保全および持続可能な利用との間に緊張を生み出してきた」とまとめる。

このため、企業は意思決定において自然損失を「十分に」考慮することが妨げられ、「生物多様性や、汚染物質の浄化、気候調節、受粉など自然が人々に提供する多くの恩恵」に対して企業が十分な価値を割り当ててこなかった、とした。

「ビジネスと生物多様性」報告書は、企業活動による自然破壊は経済の破壊につながると警鐘を鳴らす

■1000兆円を超える資金が、生物多様性の喪失を招く活動に
■生物多様性の喪失を食い止め逆転させる具体例も示す

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

執筆記事一覧
キーワード: #生物多様性

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。