■オルタナ84号(2026年3月発売号)特集「ウェルビーイング 分断の時代こそ」から転載
一般社団法人みどりのドクターズは、プラネタリーヘルスの観点からウェルビーイングを模索する。人々が健康で過ごせる社会の前提として「地球の健康」があり、国内の温室効果ガス(GHG)排出量の5%を占める医療分野の脱炭素が、新たな患者を生まぬ社会につながると説く。(オルタナ副編集長=長濱慎)

人々の健康の前提として地球環境に着目(写真:みどりのドクターズ)
■人の健康の前提に「地球の健康」が
医療部門のGHG排出量は年間約2ギガトンで、世界全体の排出量の4〜5%を占める。国際NGO「Health Care Without Harm(HCWH)」は2019年の報告書で、医療部門を「一つの国」と見なせば中国や米国などに次ぐ5位になると指摘した。日本においても同様に、国内産業の排出量の約5%を占める。
気候変動などの環境要因による死者は年間約1300万人と、21世紀に入ってから最大の単一死因ファクターになった。世界な影響力のある医学雑誌「ランセット」も報告書「Lancet Countdown on Health and Climate Change」を毎年発行するなど、ヘルスケアと気候変動は切っても切れない関係にある。
こうした背景を受け2022年、国内の医療関係者が中心となって「みどりのドクターズ」が発足した。26年1月現在、約130人の医師、薬剤師、看護師らが参加する。活動の根底にあるのが「プラネタリーヘルス」だ。大気や水などの地球環境が健全であってこそ、人も健康に生きられるという発想である。
「みどりのドクターズ」代表理事の佐々木隆史医師は、ウェルビーイングは重要な概念であり、プラネタリーヘルスとも一体の関係にあるとして、こう述べる。
「 すべての人が、身体・こころ・社会の健康を土台に、自分らしく生き、かつその暮らしが地球環境の限界と調和して将来世代にも続く公正でレジリエントな状態。それがウェルビーイングであると考える」
世界保健機構(WHO)が「ジュネーブ憲章」(2021年)で定義した「ウェルビーイング=生態系の限界を超えることなく、現在と将来の世代すべてにとって公正に健康が保障される社会のあり方」とも一致する考え方といえる。佐々木医師は、こう続ける。
「健康とQOL(自己実現的な人生の目標)は、自分だけでは達成できない。ゆえに個人と社会が良好な状態を続けること、バランスを取ることなどもウェルビーイングな状態と考える。これは、地球環境の保全がなければ人間の繁栄は達成できないという、プラネタリーヘルスの考えとも一致する」
■医療機関のGHGをツールで可視化
研究や啓発、提言など「みどりのドクターズ」の活動は多岐にわたる。取り組みの一例が、医療機関向けカーボンフットプリント計算ツールだ。
手術をはじめとする医療行為、使い捨て材料の焼却、医薬品や医療機器のサプライチェーンなど、医療機関のGHG排出源は多岐にわたるため、全貌の把握が難しい。そこをツールによって可視化することで、脱炭素を後押しする。
ツールは、すでに70ヵ国以上に普及している。「みどりのドクターズ」はHCWH東南アジア、日本医療政策機構と共同で日本語版ツールの開発を進め、セミナーの運営などを通して普及に取り組んでいる。



