南三陸の集落、東日本大震災の前後を映画で描く

震災後の南三陸・波伝谷(はでんや)集落を描いたドキュメンタリー映画「願いと揺らぎ」が、2月24日から公開される。大学の民俗学ゼミの調査で2005年に初めて波伝谷を訪ね、伝統的な獅子舞の熱気に魅せられた我妻和樹監督は、2008年から映画づくりを開始。祭りの2日前に3.11に遭遇し、前作「波伝谷に生きる人びと」を発表した。今回は震災前後12年の取材を背景に、激変した集落で生き抜く人びとの現実を描く。(オルタナ編集委員=瀬戸内 千代)

波伝谷の「お獅子さま」(C)ピーストゥリー・プロダクツ

笛太鼓と踊りにのって獅子舞が家々を巡る「春祈祷」は、同集落で「お獅子(すす)さま」と呼ばれ親しまれてきた。約80軒260人ほどの住民が総出で楽しむ一大行事だったが、東日本大震災の津波で、地名の通り「波が伝わった」波伝谷では16人が犠牲になり、家も1軒を残して全て流された。

現地で被災した我妻監督は、震災後の日々を「時空のひずみに放り出されたような、現実味のない時間」と語り、そのころの映像をモノクロにした。一方、撮りためていた震災前の映像は、「取り戻したい本来の生活」としてカラーで挿入した。同集落に寄り添ってきた12年間が可能にした表現だ。

当初は「お獅子さま」復興を客観的に描くつもりだったが、図らずも、震災後に生じた人間関係のひずみに監督自身が巻き込まれていく。そして映画は、最も撮りたかった若者に5年後にようやくインタビューできた場面で幕を閉じる。

稀有なタイミングと確かな意識で撮られた同作は、山形国際ドキュメンタリー映画祭のインターナショナルコンペティションに入選した。

撮影・編集も一人でこなした我妻和樹監督

「よそものと地域の人が関係を結んでいく過程」を体現した我妻監督は、「他者との共生がテーマだった。『絆』は美しいだけではない。デリケートな内容も含み、現地上映後は二度と来られないことも覚悟したが、5年経っていたから受け入れてもらえた」と語った。

2月24日に東京「ポレポレ東中野」で公開後、仙台や京都など全国で順次上映。ポレポレでは波伝谷住民や南三陸町出身の社会学者などと監督のトークショーを9回予定している。

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瀬戸内 千代

オルタナ編集委員、海洋ジャーナリスト。雑誌オルタナ連載「漁業トピックス」を担当。学生時代に海洋動物生態学を専攻し、出版社勤務を経て2007年からフリーランスの編集ライターとして独立。編集協力に東京都市大学環境学部編『BLUE EARTH COLLEGE-ようこそ、地球経済大学へ。』、化学同人社『「森の演出家」がつなぐ森と人』など。

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